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秘密の護衛終了


あれからセシルは子供がくれた薬のおかげで胃もたれから解放され、『ミンじーちゃん』なる人物のもとに連れて行かれた。

今は、目の前の老人から厳しい視線を向けられている。

間違いなく、この老人こそが子供が言っていた『ミンじーちゃん』なのだろう。

部屋には老人だけではなく若い魔道士も数名いて、杖を構えたままセシルを取り囲んでいた。

もしここでセシルが何か妙な真似をすれば、即座に彼らの魔法が襲い掛かり、間違いなくただでは済まなくなる。

もっとも、セシル自身は彼らを害するつもりは微塵も無いので、その点に関しては心配は無用だったが。

「……みな、下がっていなさい」

突然の老人の指示に、他の魔道士達が慌てふためく。

彼らが反対するのは当然だ。

一体どこの世界に、つい先日、自分達を襲撃してきた危険人物と敢えて二人きりになる人間がいるのか。

だが、どんなに周りの者たちが反対しても老人は首を横に振り続けた。

「彼が用があるのは、そなた達ではない」

そう言って、老人は全てを見透かすような瞳でセシルを見詰める。
セシルもまたその瞳の静けさに息を呑み、反らす事が出来なかった。

偽りも建前も、逃げすらも許さないその瞳を見て、覚悟を決める。


そうだ。
もう己の罪から目を反らすのはやめよう。
どんなに目を反らしたところで過去は無かった事にはならない。
自分が彼らの仲間を、大切な人達を奪った事実は変えられない。


正直、未だ自分が犯した罪を責められる恐怖はある。
けれど、そもそもそんな恐怖を感じる資格は自分には無い。
その恐怖の原因は、自分の弱さが招いた過ちなのだから。


今こそ向き合うべきだ。自分の罪と。


そしてセシルは俯かせていた顔を上げ、真っ直ぐに老人――ミシディアの長老ミンウと向き合う。

二人きりになった静かな部屋で、闇の騎士の懺悔が始まろうとしていた。


***


その頃、セシルを長老の元へ案内した子供は釣竿とバケツを持ち、里の出口に向かっていた。

もともと子供は、セシルをミシディアに連れて来た時点でその役割を終えている。

つまり、里に着いた後も面倒を見る義務は無かった。

だが、それでも子供は側を離れなかった。

里に入った瞬間から、セシルに向けられた憎悪で両者の関係は把握出来た。

あのまま一人にすれば、セシルは里の魔道士総出で袋叩きにされただろう。

とは言え、彼らの復讐からただ単純に守ればいいのかと言うと、そうとも言い切れなかった。

守る事は不可能ではないが、そんな事をすれば不満が溜まった里の人間達は陰からセシルを狙い始める。

そうなると、ますますセシルを守りにくくなる。

ならばどうすればいいのか。

そこで出した結論が、『命の危機に陥ったら助ける』だった。

つまり命に関わらない嫌がらせ程度は放っておき、命に危機が迫った時のみ助けるという事だ。

ある程度の復讐をさせておけば、里の者達も完全ではないにしろ少しは溜飲が下がり、不満も溜まりにくくなる。

それに、彼らもいくら復讐とは言え幼い子供の目の前で人殺しはしにくいだろう。

だから、子供は魔道士達の嫌がらせを黙って側で見ていた。

そして長老に身柄を渡した今、あとはセシル自身の問題。

子供の役目は、もう終わった。

子供がこれ以上ミシディアに留まる理由は、無い。

出口に着いた子供はバケツを地面に起き、懐から取り出した犬笛のような物を吹いた。

ピィーッという音が辺りに響いてから数秒後、遠くから地響きのような足音が近付いて来る。

やがて足音は子供の目の前で止まり、まるでお帰りとでも言うかのように「クエーッ」と鳴いた。

「ただいまー」

子供は微笑み、屈んだ足音――否、青いチョコボの背に跨がる。

「おそくなってごめんね。でも、ちゃんとさかなはつれたから、きょうはおいしいさかなりょーりを作るね!」

子供が頭を撫でながらそう言うと、青いチョコボは嬉しそうにまた「クエーッ」と鳴いた。

その鳴き声に、子供の笑顔にも嬉色が混じる。

「よし、じゃあ家にかえろ。しゅっぱーつ!!」

元気よく出された号令に青いチョコボが応え、猛スピードで走り出した。





「どうしよっかなー♪ シンプルにやきざかなかな♪ につけかな♪ ムニエルかな♪」

ミシディアと距離が広がる中、既に子供の頭の中は釣った魚をどう調理して食べるかで一杯で、セシルの事は跡形も無く忘れ去られていた。

わずか1分足らずで、子供の中でセシルの事が『どうでもいい事』として処理された瞬間だった――…



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