[通常モード] [URL送信]

三国志
星の林(蒼:曹操)
ふと気づくと真っ青な空間に立っていた
空は深い藍をしていて、星がちかちかと光っている
夜に青く染められた白い木に囲まれ、道は白く発光しているようだった
その光景を見た瞬間、不思議と自分が死んだのだという事を悟った

驚きもせず悔やみもせず、ただ終わったなとだけ思った

思えば長い道のりだったけれど
沢山のものを捨て、傷つけ、失くし、汚した、そんな生だったけれど

終わってみればまぁ、こんなものだ

そんな風に思いながらも、不思議と気分は悪くなかった

冷たい空気は凛と澄んでいて、青い世界は美しい


それだけで何故か、良いと思えた


ゆっくりと歩き出す
この先は多分、何も繋がってない
天国でも地獄でもない

それが分かっていたから、せめて無へと続くこの青い世界を楽しみたいと思った


散歩する様にのんびりと道を行く
白い道の先に、小さな影が見えた
目を眇めるまでもなく、何故か彼だと分かった


「殿」


そう呼んだ彼は若い頃の姿をしていた
お互いに忙しく、いつも一緒には居られなくて、それでも意識は常に傍に居た頃


「待っていてくれたのか」

半ば驚き、半ば確認する様な声がこぼれた

彼はただ微笑んでいる

あんな別れ方をしたというのに
あんな終わり方をしたというのに
自分が無理矢理終わらせたのに


気づくと視界が揺れていた
彼が死んだ時も涙は出なかったというのに、自分も死んで漸く涙するなど、皮肉としか言えなかった


「儂は謝らぬぞ」

感傷を振り払う様に、わざと強い声で言う

「自分の考え方が間違っていたとは、今も思っていない。だから、お前に謝らない」

そう言うと、彼はひどく楽しそうな笑みを浮かべた

「ならば私も謝りますまい。私も、自分が間違っていたとは思っておりませぬ故」

「そんな事を言って、最初から謝るつもりなどなかったろうが」

「当然ですよ。私は間違っていないのですから」

飄々と言う
その様子が昔のままで、思わず唇が緩んだ


「…だが、お前に最期にした事については、謝りたい」


ずっとずっと謝りたかった

例えそれがどうしようもなく交わらない平行線だとしても、それまでの全てを踏みつけるような、消し去るような、そんな事をするべきではなかった

間違いとかいう問題ではなく、してはならない事だった

それがずっと自分を支えくれた彼を裏切る行為だったと気づいたのは、彼を失った後だった


彼は静かな目でじっと此方を見つめている

何かを考えている時の、少し首を傾げる癖
その仕草が好きで、よく難題を持ちかけた


数え切れない程衝突をしたが、彼の最期を指示する時ですら、自分は彼の事が好きだったように思う



ふっと彼が微笑った

どうしようもなく無茶な命令をされた時の、やれやれという声が聞こえる様な表情が、ゆっくりと顔に広がっていく


その瞬間、自分はずっとずっとこの顔が見たかったのだと悟った


「謝る必要はありません。私は一度も、貴方を憎んだ事などありませんから」


不意を突かれた
そう思った

涙が零れる
滲んだ世界の向こうで、青い彼が微笑っている
差し伸べられた手に、重ねた自分の手も青い
「わしもだ、文若」


微笑むと、曹操は彼に向かって足を踏み出した







道を違えてしまった2人だけど、それだけで終わりじゃないといい。


[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!