[携帯モード] [URL送信]

頂き物
love sick.1




 布越しに感じる熱は酷く鮮明で、そして少しほろ苦かった。







love sick.







 何故こんな事になったのか。
 考えた所で既に詮無い問いに思考を奪われ乍ら、湯隆は夜道を歩いていた。その広く肉厚の背中には、赤い顔で寝こけている白勝の小さな体が乗っかっていた。
 ───考えてみるに。
 あの顔色の悪い薬師は、気の小さそうな様子をし乍ら中々に意地の悪い男だと思う。
 年頃の男ならいざ知らず、歴とした成人男性である白勝が酒屋で転がっていた所で何の心配も無い。ましてや子供でも無いのだから、風邪を引こうが誤って誰かに蹴飛ばされようが───構うか構わないかと聞かれれば大いに構うのであるが───それは白勝の責任というものだった。
 しかし薛永が酔い潰れてしまった白勝をちらりと見、
 「送ってやったらどうだ」
 安道全に見えない様に薄く笑い、そう宣ったものだから、断る理由も弁も無い湯隆には如何ともし難く、結局湯隆は一矢も報いる事が出来ない侭白勝を背負ったのだった。
 戸惑っているのは、何も白勝が疎ましいからではなかった。
 むしろ湯隆は、自分が白勝に対して、他の人間とは比べようも無い程に感情を、想いを傾けている事を知っている。
 しかしそれを知った事で何か変わる訳でも無く、又変えられるものでも無かった。白勝にとって自分は友人であり、それはとても喜ばしい事であったが同時に友人以上の存在にはなり得ないのだという事を、白勝の笑顔に突き付けられている様だった。
 別に、今以上の幸福を求めているのでは無い、唯、心の奥という捉え辛い箇所を撫でられて戸惑っているだけなのだと、湯隆はそう思っていた。でなければ、慣れない息苦しさに呑み込まれそうだった。
 そこ迄考えた時、ぼう、と梟の声がして、湯隆は足を止めた。
 目的の建物は疾うに過ぎていて、情けない苦笑いが漏れる。こんなにも白勝に対して思い耽っている自分が可笑しかった。
 暗い中にも、木の葉や草に降りた露が綺羅綺羅と光っている。今夜は星月夜である様だった。辺りに散らばる、美しくも冷たい露に白勝が濡れぬ様歩き乍ら、湯隆は肩で扉を押し開けた。
 寝所に入っても、白勝は無防備に寝息を立てていた。白勝の髪や吐息が首筋をかすめる度に湯隆がどれ程不整脈を起こしたか、当人は毛程も知らない。
 人の気も知らずに何と呑気な、と、湯隆は白勝を寝台の上へ横たえ自らもその縁へ腰掛けた。





[次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!