喜劇的エチュード
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11
―――予想外、だった。
俺の“この世界”に来てから立てていた予定では、俺は一学年最後の学力診断期末テストで偶々普段よりも良い成績を取ってA組に編入する筈だったのである。
その方がまだ不自然では無いし、一年生の内に原作軸への伏線を張りまくるのに都合が良い。
なのに、まさかのA組に移動。
――……まー明日のお楽しみだな。
「さいっあく…!」
俺は苦虫を噛んだかの如く顔を潜めながら、少し職員室には遠回りになるが人通りの乏しい特別棟の廊下を走っていた。
「、ッ」
「すいませ、ん!」
思考の海に入り過ぎたらしく前方を気にして居らずにぶつかった相手に一瞬だけ速度を緩めて謝罪の言葉を告げ、俺は相手の顔を確認する事無く走り去る。
「―――――、」
背後からぶつかった相手のものであろう意図の掴め無い視線を感じた気がしたが、焦りに満ちた思考の俺はその事を意に介さずに廊下を走ったのだった。
走っている内に冷静に思考を巡らす余裕が出て来たらしい。
俺は特別棟からまた職員室のある普通棟への渡り廊下を歩きながら、走った所為か少々乱れた髪や制服を軽く直す。
そして職員室の扉を少し力を込めて、開けた。
「竜崎、先生は…いらっしゃいますか?」
呼び捨てで呼びそうになったのを堪え、俺は平静を保ち平然とそう言った。
視線だけで見回した職員室とは思えない様な豪華で絢爛な室内に、竜崎の金に違い茶髪は見当たらない。
――逃げたな…。
舌打ちしたいのを堪えてぐっと唇を噛めば、冷静で冷徹なそれでいて艶のある声が俺の名を呼んだ。
「君は中田涼、だな。」
「…そうですが。」
俺の返答にノンフレームの眼鏡をクイッと中指で上げ、舐め回すように俺を見定める黒髪の教師――東雲秋吉[シノノメアキヨシ]。
全身を蹂躙する視線に不快感を感じたがそれを耐えて東雲を見ていれば、東雲は見下す様に鼻で笑った。
東雲秋吉。
主人公である永臣雅人の母方の叔父にあたり、“物語”に大きく影響を及ぼす人物。
鉄面皮を貼り付けているがやはり整った顔立ちで、生徒会と同等の権利を持つ風紀委員会の顧問。
そして――
「一応自己紹介をしておく。
今日からお前の担任になる東雲秋吉だ。」
凡人である俺を馬鹿にした様子を隠さずに冷たい瞳でそれだけ言った東雲は、席を立ち「授業が始まる、付いて来い。」と此方を向かずに吐き捨てながら扉に足を向ける。
「、はい。」
A組に移動したくなかった原因の一つである凡人嫌いで有名な東雲の背を見やり、俺は溜め息を吐いたのだった。
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