片方の耳とイヤホン 前書き ・アレロクです ・愛を詰めたら激長な甘々になりました ・アレルヤがあまりへたれてません(笑) ・歌詞とタイトルはSilbermondというドイツ歌手の歌から引用しました。歌詞より雰囲気重視! ゆーちゅーぶにもあがってるので是非聴いてみてください。 一一一一一一一一一一一一 プシュー、と。 気の抜ける音を立てて背後で扉が閉まると、どっと疲れが増した気がした。 底が抜けそうな程詰め込まれた紙袋を両脇に抱えたまま、無意識に息を吐く。 するとほぼ同じタイミングで、隣からもため息。 見ると、負けない位大荷物(勿論、量も重さも僕の方が多くしてあるけれど)を抱えた、ロックオンと目が合って。 お互いの顔の色濃い疲労感に、思わず二人して吹き出した。 Letzte Bahn 年齢のせいか、体格を考慮してか、はたまた単に頼みやすいからかは分からない。 それとも、僕達の関係を暗に考慮にいれてくれているのか。 何かと必要な物の多い女性クルー達に頼まれ、ロックオンと共に買い出しに出掛ける事が習慣になっていた。 折角の休みなのだから、ゆっくりしていたくないと言えば嘘になる。 けれど、いとしい人と二人で過ごす休日の幸福感に比べたら、そんなものは些細な事だった。 「ふぅっ。流石に疲れたな」 そう言ってロックオンは座席に腰を下ろすなり、ぐっと伸びをする。 コートを脱いで薄着になった背中が、きれいなラインを描いた。 「こんなに遅くなるとは思いませんでしたね」 買った物が荷崩れを起こさない様しっかりと収納しながら苦笑すると、ホントだよなぁと呆れた声が帰ってきた。 頼まれた買い出しはデパート一箇所では済まない程多彩で、二人はスメラギさんから渡された縦に長いメモを片手にほぼ丸一日かけずり回ったのだ。 お陰で最終便にすら危うく乗り遅れる所だった。 これでもし間に合わなかったら、問答無用でお叱りを受けていたであろう事を思うと、本当に良かったとしみじみ思う。 「早く座らないと動き出すぞ?」 「今行きます」 自分は手前に座って、ロックオンは奥の座席をぽんぽんと軽く叩いて示す。 僕の定位置になりつつある、彼の右側で、窓際の席を。窓から見る地球や宇宙が実は好きだとか、隠れない左目であなたを見つめたいだとか、彼に語った事は一度もない。 それでも、無意識の仕草や視線からそれを汲み取って、何でもない事の様に叶えてくれる彼が、たまらなくいとしいと思った。 彼の隣に腰を下ろし、深く背を預けて窓外を見やる。 丁度列車が動き出し、重い機械音と共にゆっくりと景色が動き出す。 そうしてまた、僕らは宇宙に投げ出されるのだ。 (…いけない、まただ、) 彼との休日を重ねる度に、この星から離れるのを名残惜しく思う自分がいる。 ついこの間、人を殺めた場所は同じ大地の上だというのに。 (―――また、二人で降り立てるんだろうか…この星に、) そっとガラスに触れる。既に見えるのは空ばかりだ。 あと数分もすれば、周りは星の海になるだろう。 (そうしてこの星からも切り離された僕らは加速していく) そして最期はみんな散り散りになって、 (――――まるで、打ち上げ花火みたいに、) 「っうわッ!!」 突然左耳に何かを突っ込まれて、思わず情けない声があがる。 隣で軽やかに響くロックオンの笑い声。 ♪ Kommst du mir nach, Wenn ich jetzt von dir geh... ♪ 途端に流れ込むメロディー。 見ると、もう片方は彼の右耳に収まっている。 髪をかけた耳は普段晒されない為か透き通る様で、そしてほんのりと赤かった。 「ロックオン?」 するりと、手袋さえ外した指が伸びてきて、僕の左手に絡む。あたたかい。 不意に涙腺が緩みそうになった事すらお見通しの様に、彼は僕の肩口に頭を預けた。 柔らかな髪の感触とシャンプーの香りに、いつの間にか僕も頭を寄せ、瞳を閉じていた。 ♪ In deinem Zimmer brennt noch Licht. Scheinbar siehst du noch fern... ♪ 「ロックオン」 「…ん?」 重ねた手を持ち上げ、白い手の甲に唇を落とすと、くすぐったそうに彼は笑う。 「今度は、買い物のない日に地球へ行きましょう…一緒に」 「ん…」 「地上を走る列車に乗って」 「そしてまた終電で帰るわけだな」 唇が触れ合いそうな距離で、彼がふわりと笑う。 「それで、行き先は?」 「海が見たい。 ―――あなたの瞳の様な、あたたかくてきれいな海が」 ふるり、と音もなく溶け出す碧に、そっと口付けた。 ♪ Alles,was jetztist, Wird nie mehr so sein,wie es war. Deshalb muss ich schnell vorgessen, Wie es ist,wenn man mich k¨usst... ♪ ―――いつか散り散りになったならば、 (流れ星になってあなたと共にあの星に墜ちたい) fin |