夢小説(その他)
下級魔人は苦労性(ネウロ ギャグ?)
人間の世界がそうであるように魔界にも、逆らいがたい優劣というものがある。
下級魔人であるあたしなど、もっぱら『劣』属性で毎日毎日頭を下げる日々だ。
こんな日常から逃げ出したいと何度思ったかわからない…そんなある日のこと。
「アサヒ、地上へ行くぞ」
見た目だけは麗しい青年が赤い瞳をぎらぎらと輝かせそんな言葉を口にした。
「いってらっしゃいませ。サクヤ様」
教科書の手本になりそうなくらい優雅な仕草でアサヒは礼をする。
「お前も行くんだよ!」
下げた頭を鷲掴みにされ、アサヒは奇妙な悲鳴を上げた。
「いただだだっ!ご冗談はおやめ下さいっ!第一、何故サクヤ様が地上へ行く必要が…」
必死に抵抗するアサヒにサクヤは小さく鼻を鳴らす。
「つまらないからだ。」
「………つまらないと仰いますと?」
サクヤに乱された髪を手ですきながらアサヒは問い返す。
「ネウロが地上に出た事は知っているな?」
「はい。ネウロ様は魔界の謎を食い尽くしてしまわれたので地上へ出られたとお聞きっ!痛い痛いっやめっ…やめて下さい。サクヤ様っ!」
グリグリと拳を頭に押し付けられアサヒが情けない声を出す。
「ネウロ『様』?あんなヤツに『様』なんてつける必要ないだろう?」
「サクヤ様はそう仰いますが、あたしは一介の下級魔人ですから…っ!いひゃい、いひゃいれふっ!」
むにーっと頬を引っ張られアサヒは顔を歪めた。
「下僕は黙ってついてこい!ネウロがいないと戦う相手がいないのだ。」
アサヒは小さめため息とともに諦めた声で答える。
「はい、サクヤ様。」
強引に地上へのゲートをこじ開けるサクヤの姿にアサヒは呆れたような顔をする。
こんな手段で地上に出るのはサクヤ様とネウロ様くらいだ。下級魔人であるあたしとは違い…上級魔人である彼等は地上での生活が不便に違いないのに。
自身の欲を満たす為だけに無謀極まりない選択をされる。
「行くぞ、アサヒ」
「はい」
全く、酔狂な話だ。
「む、いたぞ。」
「そばにいるのは、人間の娘のようですね。…サクヤ様、とりあえずネウロ様が一人になるのを見計らっ「行ってこい!」…サクヤ様あの、あたしの話し…「貴様の話しなど聞く必要はない。下僕は下僕らしく『はい、ご主人様』と答えていろ。」…軽率な行動は…「今俺様に殺されるのとネウロに会ってくるのどっちが良い?」………。」
選べない。
同じくらい強大な力を持った上級魔人だ。
「決まったようだな。そら、行ってこい!」
ガシッと襟首を掴みサクヤはネウロ目掛けてアサヒを放り投げる。
「きゃああああああっ!!」
布を裂くような悲鳴をあげアサヒの体が文字通り宙を走る。
ぶつかる寸前で、ガシリとネウロに体を掴まれ…アサヒはガチガチと歯を鳴らした。
「アサヒ、何故貴様がここにいる?」
「ねっ…ネウロ、様っ」
真っ青な顔で自身の名を呼ぶ下級魔人にネウロはこれ以上ない笑みを浮かべた。
「我が輩に捨て身の攻撃とはやるではないか。覚悟は出来ているのだろうな。」
「………あっ…こ、これは…サクヤ様がっ…」
大きな瞳いっぱいに涙を溜たアサヒの言葉にネウロは鼻を鳴らす。
「サクヤ『様』だと?ヤツを様付けで呼ぶ必要などない!そうだろう、この蛞蝓が、低能な貴様は粘液を出して這い回るのがお似合いだ!」
「いひゃいっ!いひゃいれふぅ、ネフロひゃまっ!」
ぐにーっと本日二度目の頬を伸ばす攻撃にアサヒは間抜けな顔で抗議する。
「アサヒ、何が言いたいのか全くわからんぞ。ん、物足りないとでも言いたげな顔だな?」
「ひがいまふぅーっ!」
「ネウロ、その人は…」
「コイツは我が輩が魔界にいた時、目をかけてやった下僕だ。」
「とてもそんな風には見えないけど…。」
ぞんざいな扱いを受ける名も知らぬ少女に弥子は言いようのない親近感を覚える。
そんな弥子の耳に入った聞き覚えのない低い声
「久しぶりだな。ネウロ」
「サクヤか、今日はずいぶんと同族にあうな。」
アサヒを片足で踏みつけながら笑うネウロにサクヤは不愉快そうに眉を寄せた。
「アサヒを踏みつけるのは俺様の特権だ。」ぐりっと踵でアサヒの背を踏みながらサクヤは呟く。
「サクヤ様、い、痛い…」
蚊の鳴くような声で主張されるアサヒの抗議…
「『わたしの如き低能な僕を踏みつけて下さりありがとうございます!ご主人様』だろうが?!」
「痛いっ痛いっ!」
力いっぱい踏みつけてられアサヒの口から悲鳴があがる。
「アサヒ、我が輩の靴をきれー…いに舐めて『ご主人様、どうかこの僕を可愛がって下さいませ。蚯蚓以下の下等生物であるわたくしではございますが精一杯ご奉仕させて頂きます。』と頼めば今の状況から助けてやるぞ。」
ぐりぐりと頭を踏みながら笑うネウロ。
「あぁ…すでに最低ラインにあるあたしの生き物としての尊厳がマイナスになっていく…」
はらはらと涙で地面を濡らしながら呟くアサヒ。
「「アサヒ、貴様の主人は誰だ」」
ネウロとサクヤ、2人の上級魔人の発言にアサヒはむせび泣いた。
どうすれば良いんだ。どっちも選びたくないし選べない。
「「ほう、我が輩(俺様)に踏みつけられるのが泣くほど嬉しいらしいな!ハハハ」」
「………あ、あの…もうその辺で…」
恐る恐るそんな言葉を口にした弥子に鋭い4つの瞳が向く。
「何だ…お前…部外者は黙って地べたを舐めていろ。」
「弥子、貴様は黙って土下座歩きで事務所へ戻るがいい。」
「で…でもっ、その人具合悪そうだよ?!」
弥子の言葉に2人の魔人は慌てたようにアサヒを見た。
ぐったりと地面に横たわった体に…2人の顔が青ざめた。
「アサヒさん、大丈夫ですか?」
弥子の言葉にアサヒは笑う。
「すみません。弥子様ご迷惑をおかけしました。」
事務所のソファーに座ったアサヒは深々と頭を下げる。
その背には黒鳥のような美しい翼が生えていた。
「もう、大丈夫なんですか?」
「あたしはネウロ様やサクヤ様と違い翼を通す事で人間界の日光や月光、空気を材料に魔力とショウキを体内で精製する事が出来ます。しばらく翼を出しておけば問題ありません。」
………植物みたいな人だ。
そんな突っ込みを弥子は飲み込む。
「えっと…サクヤさん、でしたよね?あなたもネウロみたいに食糧をもと…」
「俺様は他の魔人から魔力とショウキを奪える。そこのボンクラがいれば問題ない。」
…嫌な言い方
その言葉を顔に浮かべてから弥子は頭を切り替えるようにアサヒを見つめ微笑んだ。
「………アサヒさんの翼、凄く綺麗ですね。」
にこりと笑った弥子の言葉にアサヒが頬を染める。
「あ、ありがとうございます。そんな事、はじめて言われました。凄く嬉しいです。」
頬を薔薇色に染め本当に嬉しそうにアサヒは笑う。
「「…………。」」
そんなアサヒと弥子の様子を見つめていた2人の上級魔人は同時に口を開いた。
「「アサヒ、我が輩(俺様)もお前の翼は美しいと思うぞ」」
パキィーンとアサヒが凍りついた。
ガタガタと震え、聞いてはいけない言葉を聞いたとばかりに目を見開く。
「すっ、すみません、ネウロ様、サクヤ様…な、何かご機嫌を損ねる事をしましたか…?サクヤ様にちょっと魔力を吸われたくらいでへばってしまったからですか?!申し訳ありませんっ!」
完全に腰が引けているし涙目だ。先ほどまで背にあった翼は跡形もなく消えている。
「「…………アサヒ、失せろ。」」
同時に告げられた2人の言葉にアサヒは一瞬固まり、ポロリと涙を零した。
「…は…い、…も、し訳ありませ、ん」
バタンと閉まるドア
「……………チッ」
サクヤは小さな舌打ちを漏らし、目元を覆う。
ネウロは、何事もなかったように机の上で足を組んだままアサヒが出て行ったドアを見つめていた。
「自分が望んだ反応(答え)がもらえなかったからって…今の態度はないよ。」
弥子の言葉に鋭い4つの瞳が向く。
「…他の言い方があったんじゃない?」
公園のベンチに座りアサヒはため息をもらした。
「ネウロ様とサクヤ様を怒らせてしまった。」
じわりと瞳に涙が浮かぶ。
「っ…ぐすっ、」
ポロポロと零れる滴
その姿は、見ただけで苦しくなるくらい悲痛なものだった。
「…大丈夫か?」
聞き慣れない低い声にアサヒは顔をあげる。
疲れたような雰囲気の男がこちらを見下ろしていた。
おろおろと視線をさまよわせたアサヒの隣に腰を下ろし男は呟く。
「何かあったのか?」
「………えっと、あなたは?」
「通りすがりの警官だ。話すだけですっきりする事もある。俺で良ければ話を聞くけど…」
そんな男の言葉に促されるようにポツリポツリとアサヒは事の経緯を説明する。
黙って話を聞いた男…笹塚は、ゆっくりと息を吐き出し呟いた。
「あんたの話を聞く限り…それで良かったんじゃないのか?もう関わらない方が良いと俺は感じたけど…?」
「…でも…」
「何でそんな目にあってまで一緒にいるのか…俺にはわからないな。」
「…………はじめて、あたしという存在を見てくれた方々だから、でしょうか。」
「……………。」
「…正直痛い事も苦しい事も嫌で、苦痛なんです。でも『失せろ』と言われた時とても悲しくて…、よく分からなくなりました。」
「……一緒にいたいなら、そう伝えたら良い。その男たちも思いを伝えるのが苦手なんだろ。」
「…思いを、伝える…?どんな風に言えば…。」
「そうだな……簡単に――――。」
深呼吸を繰り返し、気合いを入れて事務所のドアをノックし開く。
明るい事務所の中では床に伏した弥子がネウロとサクヤに踏みつけられているところだった。
「…アサヒ、さん…助け…」
「「アサヒ、失せろと言ったはずだ。」」
助けを求める弥子と打ち合わせしてたかのように同じ言葉を口にするネウロとサクヤ。
アサヒはゆっくりと3人に近づき、ネウロとサクヤの手を握った。
「アサヒ…?」
「…お前、何して…?」
名を呼んだネウロと行動の意図を尋ねたサクヤ、2人に答えるようにアサヒはぎゅっと手を胸の前で合わせる。
3人で手を重ねるような形となりネウロとサクヤの顔に訝しげな色が宿った。
「どうか…お側において下さい。」
泣き出しそうな顔で見上げられた魔人の顔が朱色に染まる。
「…サクヤ、消えろ。我が輩はアサヒに話がある。」
「奇遇だな。俺様もだ。ネウロお前こそ消えてくれ。」
バチリと飛ぶ火花
綺麗に整った顔立ちにこれ以上ないほどドSな笑みを浮かべ笑うネウロとサクヤにアサヒは続けた。
「だ、ダメ…ですか?」
ぎゅっと繋がれた手に力が入る。
「…一緒に、いて下さい。ネウロ様(サクヤ様)」
アサヒが告げた言葉の後半は、互いの耳には自分の名しか届かなかった。
茹で蛸のごとく染まった顔を背けネウロとサクヤは答える。
「「………許可してやる」」
その言葉に花の開くような愛らしい笑みを浮かべたアサヒは、トドメとばかりに声を出した。
「ありがとうございます。あたしのご主人様(マイ・ロード)」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
終
最後の一言が書きたくて作成。
この後は多分ネウロ氏とサクヤ氏の間で争いがおきるもよう。
意外と書きやすい主人公でした。
また登場できるのかは……皆様の反応と鴉次第…。
アサヒさんお付き合いありがとうございました。
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