夢小説(その他)
名前(ソウルイーター ジャスティン)
スドドドド…
「…あの、ジャスティンさん…」
「〜♪」
鼻歌を歌う青年の耳にはスッポリとイヤホンが刺さっている。
「ど…どうしよう。」
ギリコに呼んでくるよう言われたものの…こちらの意志を伝える手段がない。
いや、ないワケじゃない。
彼はあたしが呼んでいる事に気づいているはずだ。
「あ、あの〜…ジャスティンさん。」
「〜♪♪」
イヤホンを引っこ抜けば話は早いのだが先日それをして殺されかけたばかりなので…それは遠慮したい。
恐る恐るその細い肩に手を伸ばし軽く指先で叩く。
青い瞳が渋々といった感じで此方を向く。
温和そうな顔に浮かんだ不機嫌そうな表情にアサヒはびくりと身を竦ませた。
「ジャスティンさん、あ、あの…ギリコが呼んでますっ」
「何ですか?」
「ギリコが呼んでるので行って下さい。」
不毛にも感じる行為だが読唇術が使える彼になら十分意志が伝わる。
「はい?」
「いや、はい?ではなくて…ギリコが呼んでるので…」
「〜♪」
え?何??
嫌だって事?
それともあたしとは会話したくないって事??
「…爆音神父が、殺すぞボケ」
ぼそりとこぼれた本音
「…汚い言葉、悪い子だ。」
「聞こえてるじゃないですか?!」
「〜♪」
「うわ、ムカつく。」
「〜♪♪♪」
聞いてないし…
こんな事が何度か続けば、誰だって何か気分を悪くするような事をしただろうか?と考える。
こんな事が毎度の事になれば、大抵の人間は…
「アサヒ。ジャスティンを呼んで来てもらえませんか?」
「嫌ですよ。あたしあの人嫌いです!」
プイッと体ごと顔を背けアサヒは開いた雑誌に集中する。
「…アサヒ、ジャスティンを呼んで…」
「用があるのはノアでしょ。あたしはアイツに用はないから嫌です。」
吐き捨てるようなアサヒの言葉にノアはサクヤを見る。
視線を受けたサクヤは困ったように笑う。
「アサヒ、行ってきてもらえませんか。」
もう一度告げられた言葉にアサヒは、パタンと雑誌を閉じた。
「出かけて来ます。」
乱暴な仕草で雑誌を放り投げアサヒは背を向け部屋を出る。
「アサヒ、俺もっ」「サクヤは、アイツを呼びに行きなさいよ。」
パタンと閉じた扉
「…で、何であんたがここにいるのよ。」
心底嫌そうならアサヒの声は、隣の青年には聞こえていないはずだ。
「〜♪」
「………チッ」
舌打ちを漏らしアサヒは、捲っていた本を閉じる。
隣で爆音を響かせられたら、読める本も読めない。
彼と鉢合わせしない場所でここを選んだはずなのに、何でここにいるんだろう。
手にした本を投げつけたい気分になったが、武器を持たない自分が職人無しでデスサイズになった青年に勝てるとは思えない。
ムカつく。
本当にムカつく。
ギリギリと本を持つ手に力が入る。
追い討ちをかけるように、青年の穏やかな歌声が余計に神経を逆なでした。
「〜♪♪」
鼻歌を歌うなとは言わないが、如何せん図書館でその行為はどうなんだろう。
「ジャスティンさん、迷惑ですよ。」
「…………。」
何時でも逃げられるように立ち上がったままアサヒは呟く。
ジャスティンの青い瞳がアサヒを見上げ…呆れたように視線が下がった。
「〜♪」
ジャスティンの口から零れた音色にアサヒはぐっと本を握る手に力を入れ…
「周りに迷惑だって言ってるでしょうがっ!ジャスティン!」
ゴスッ!
分厚い本を振り下ろした。
本に殴られたジャスティンが顔面から床に突っ込む。
べちゃっと床に倒れた姿にすっとしたのは一瞬の事。
その後訪れたのは言いようのない恐怖と後悔。
やってしまった。
やってしまったァア!
ダクダクと全身から汗が噴き出す。
「アサヒ…あなた…っ」
ゆっくりと立ち上がる姿に、言いようのない恐怖を覚える。
絶対に殺されるっ!
間違いなくギロチンでスパーンっと首が落とされるっ!
こんな事ならサクヤ連れて来るんだった!
連れて来るんだったぁ!
あたしの馬鹿〜ッ!
無抵抗で殺されるなんて嫌だァア!
「アサヒ…」
「ごっ…ごめんなさいぃっ!」
引きつった顔のあたしにジャスティンはにこやかな笑みを浮かべる。
怖い
怖すぎる
何、その素敵な笑顔ッ!
今まで見た事無いんですけどぉお!
いっそ、何時ものように不機嫌な顔をしてくれ!頼むからぁあ!!
「ようやく、私を呼んでくれましたね。」
「…は?」
後悔と恐怖でいっぱいの頭にジャスティンの言葉がスルリと入ってくる。
「嬉しいです。」
にこにこと笑う青年からは、欠片の殺意も怒りも感じられない。
じんわりと浮かんでいた涙が引っ込む。
えっと…何事?!
彼の名前を呼ぶのは初めてではない。
絶対に。
その事から彼の発言を考えれば…
@ 殴られた衝撃で記憶喪失
A ふざけている
Bはえーっと…
あれ、意外と思いつかない。
腕を組み考え込むアサヒの姿にジャスティンは微笑む。
「アサヒ…」
「ん?」
名を呼ばれ視線を向ければ穏やかな青の瞳と金の髪が目に入る。
あれ…なんか近く、ない?
唇に暖かいものが軽く触れる。
「――ッ!なっ…何してっ」
酸欠の魚みたいにパクパクと口を動かすものの、上手く言葉が出てこない。
「…キスして欲しいのかと思いまして…」
クスクスと笑う顔に血がのぼる。
熱い
クラクラする。
「とりあえず、一回死んでこいッ!」
そんな叫びと共に分厚い本の角がジャスティンの頭に命中した。
「ジャスティンさん、ノアが呼んでますよ。」
「〜♪」
無駄だと悟りながら彼を呼べば、案の定返ってくるのは楽しげな歌声。
一度、ため息をつき改めて彼の名を呼ぶ。
「ジャスティン」
「はい、何でしょう?」
先ほどまで伝わらなかったのが嘘みたいに間髪入れずに返ってくる返答。
「ノアが呼んでます。」
「わかりました。」
にっこりと笑う顔。
何がそんなに嬉しいんだろう。
そんな言葉を表情で伝えれば、ジャスティンはクスクスと声を出して笑う。
「あなたに名を呼ばれる事が嬉しいのです。」
恥ずかしいヤツ…
朱に染まる顔を背ければ、澄んだ声が響く。
「アサヒ、僕の名前を呼んでください。」
そう笑う彼の要求は却下だ。
「ジャスティンさん」
「あぁ、なんて事。僕にはあなたの声が聞こえない。」
「ジャスティン」
「ありがとうございます、アサヒ」
あなたの唇が僕の名をかたどる。
それは、とても幸せな事
だから、僕の名を呼んでください。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
終
さん付けと呼び捨ては違うよね。という主張。
個人的にジャスティンは死神仕様?(登場時)の格好が好きです。
アサヒさんお付き合いありがとうございました。
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