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夢小説(その他)
女郎蜘蛛 後編

「あんたって変って言われない?」

女の言葉にサクヤはチラッと視線を向けた。

布団を敷いていた手が止まる。

「…覚えはないが、何故だ?」

「じゃあ、友達がいないのね。」

可哀想に、そう続ければサクヤは少し目を伏せた。

「幼い頃より修行ばかりで、確かに…友と呼べる者はおらぬ。」

苦笑にも似た笑みに、少しだけ女はばつの悪そうな顔をした。

「…しかし、そう言うそなたに友はおるのか?」

先ほどまでの寂しげな顔から、意地悪そうな笑みを浮かべたサクヤに女は鼻をならす。

「必要ないわ」

「なんだ、そなたも我と同じではないか。」

呆れたように答えるとサクヤは、また布団を敷く動作に戻った。

「あんた、ここで寝るの?」

「何を今更。昨夜も我はここにいたぞ。起きてはおったが…そなたには指一本触れておらぬ。」

「あたしを繋ぐ枷はないのよ?」

「心配せずとも、そなたに食い殺されたりはせぬよ。因みにこれはそなたの寝床だ。」

「はぁ?」

「男子たる我が布団に寝て、女子であるそなたを床に寝せる訳にはいかんだろう?」

「あんた馬鹿なの?」

「礼ならまだしも、文句を言われる筋合いはないぞ。」

サクヤは、少しだけムッとした顔をして答える。

ほんの少し眉を寄せただけなのに、サクヤの顔はひどく腹をたてているように見えた。

「あんたって目つき悪いね。」

「む…気にしておる事を」

率直な意見を口にすれば、サクヤは扇で顔を隠す。

その仕草が妙に幼くて女はクスクスと笑う。

その声にサクヤは開いた扇を口元までさげ呟く。

「そんな顔も出来るのだな。そなたは、もっと笑った方が良いぞ。笑った顔は可愛いと我は思う。」

「なんか失礼ね。」

眉を寄せればサクヤは笑う。

「どんな美人でも、愛想がなければ美しくはない。女子は笑顔が良いと決まっておるのだ。」

「やっぱり、あんたって変」

「ほめ言葉として受け取っておこう。」

そう答えてからサクヤは手招きをして女を呼ぶ。

「もう休め。我がおる間は、誰もこぬし我は決して危害を加えぬ。そなたが襲わぬ限り、な」





柔らかな布団に横になるのは久しぶりだったが、随分寝心地が悪い気がした。

そろりと身を起こしサクヤを見れば、床に座ったまま寝息を立てている。

右膝を立て、そこに頭を載せた姿勢は随分辛そうに見えた。

左手には、扇を握りしめている。

今なら…逃げられる。

そっとサクヤへ糸を伸ばす。

細く長く伸ばされた銀の糸は、ゆっくりとサクヤの身体にまとわりつく。

起こさないように慎重に、だが決して抵抗できないように絡まる蜘蛛の糸は、月の光にキラキラと輝いた。

穏やかな寝息

…隙を見せたあんたが悪いのよ。

そう胸中で呟いてから女は鋭い牙を向く。

凶器がサクヤの首筋に突き刺さるより早く、コツリと女の額に閉じられたままの扇が当たった。

器用に左目だけ開け、サクヤは呟く。

「我は、寝ろと言ったぞ。」

「起きて…たの。」

忌々しいとばかりに言い捨てた女にサクヤはふぅとため息をついた。

「言ったであろう?我も陰陽師の端くれ。魔物を逃がしたりはせぬよ。」

悔しそうな女の顔を片目で見つめサクヤは告げる。

「それに弱りきったそなたの糸では鼠一匹捕らえられん。」

かぁっと女の顔が朱に染まる。

「今は、身体を休める事を考えよ。ゆっくり眠れ、アサヒ。」

聞き覚えのない単語に女は首を傾げた。

「アサヒ…?」

「そなたの名だ。良い名であろう?」

「……………」

「昨日からずっと考えておったのだ。いくつか候補があったが、アサヒが一番そなたに似合う。」

「…アサヒ。あたしの、名前…」

「いずれ我が高名になれば自慢になるぞ。陰陽師 サクヤにつけられた名前だと。」

にんまりとサクヤは笑う。

「…あたしが早く自慢出来るようにさっさと偉くなりなさいよ。」

「うむ、努力しよう」

「それと…」

言いよどんだアサヒにサクヤは閉じていた右目を開く。

2つ揃った黒の瞳は闇の中でも鮮やかだった。

「あ、ありがとう。名前…」

照れくさそうなお礼にサクヤは満足そうに笑った。







「アサヒ、」

「何?」
小首を傾げる仕草は妙に幼い。

初めて出会った頃からすれば、随分と感情豊かになったものだ。

そんな事を頭のすみで考えながらサクヤは告げた。

「そなた、我と夫婦になるつもりはないか?」

「へ?」

「いや、そなたが嫌なら無理にとは言わぬ。」

「…夫婦…?あたし、魔物よ?頭大丈夫?」

「…そなたを身請けようかと思っておったが、やめようか…?」

身請け?

ぴくんとアサヒは反応を返した。

「ほ、本当に?」

「そなたが我の妻になるならな。」

随分意地の悪い取引だとサクヤは思った。

花街にいるアサヒに、選びようのない選択をさせているのだ。

案の定、アサヒは困ったような顔をしている。

何時からだろう。

アサヒが他の男の手に触れられる事に激しい憎悪を抱くようになったのは…。

柔らかな微笑も鈴の音のような声も、何もかも…己のものにしたいと自覚してから、思いは加速するばかりだ。

「…アサヒ、我が夫では不満か?」

「不満じゃないけど…サクヤは陰陽師でしょう?女郎蜘蛛など娶ったら…サクヤの立場が悪くなる。」

アサヒの言葉は、否定できない。

この事がバレれば、陰陽師としての地位を失うばかりか死罪の可能性もある。

ただでさえ、陰陽寮から目の敵にされているのだ。

しかし

「アサヒ、そなたに我以外の男が触れているのではと考えるだけで我の気は休まらぬ。そなたに触れて良いのは我だけだ。」

「…………。」

紅に染まる陶磁器のような滑らかな肌。

漆黒の髪と瞳

彼女の外見だけでなくアサヒという女を形作る全てが愛おしいと思う。

「後悔、するかも…」

「後悔などせぬよ。我が愛した女はそなただけだ。例え…死罪になろうとも、そなたと共にあれるなら…死すら甘美なものだ。」





ぱらりと開いた扇をアサヒは見つめる。

古びた扇はボロボロだが、細い指先が優しい仕草でそれを撫でる。

サクヤの扇か…

不愉快そうな表情を隠そうともせずに叢雲は扇を見つめた。

そんな姿になってまで…なぜ、アサヒを捕らえる?

この世にはいない男に問えばサクヤが、勝ち誇った笑みを浮かべた気がして叢雲は舌打ちを漏らした。

彼がアサヒと共にいた時間は短く、夫婦であった期間など片手で数えられるほどだ。

しかし彼の残した鎖は、なんと強く頑丈なのだろう。

数年間の時間でアサヒという魔物の500年という気の遠くなるような時を縛ってしまった。

もしアサヒがサクヤと出会う前に自分と出会っていたならと、考えて何とも言えぬ気分になる。

それともサクヤと出会ったアサヒだからこそ、俺は彼女を愛しているのだろうか?

「アサヒ…」

お前は何時まで捕らわれる?

出来ることなら、その扇を砕きサクヤの残した鎖を千切りたいと思う。

思っても、思っても彼女の心にいるのは今は亡き男の姿…




何が悪かったか…と問われたなら、まず時代が悪かった、と答える。

時代が違えば、あの話しの結末も少しは変わっていたかも知れない。

本当に?

そう重ねて問われたなら、正直に答えよう。

『否』…と。

何が悪かったのか…

それは…

人と魔物で恋をした、あたしたち。





 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


長―ッ!アホかあたしっ!
アンケートで霧裂さんに頂きましたZONE-00女郎蜘蛛主人公 過去話

女郎蜘蛛捏造設定、
楽しかったので後悔はしてません(笑)
しかし
とても楽しかったのですが、これで良かったのかとても微妙です。過去話って浄阿弥とか紺之介とかいう意味だったのかしら(汗)

今更思いました。

オリジナル夢となってしまいましたが、サクヤは書いてて面白かったです。イメージはSN4のセイロンです(大好き♪)

霧裂さんアンケート参加ありがとうございました。

アサヒさん、お付き合いありがとうございました。


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