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唯一つの人生【リズ望】


09'02/拍手御礼SS
「唯一つの人生」



カンカンカン、と、ブーツのヒールが地面を打ち鳴らす。

その音は廊下を響きわたり、クワン、という音となって反響した。


「廊下は走らないでください!」


通り過ぎてきたナースステーションから強い口調が耳に刺さり、慌てて歩調を緩める。

だが競歩にも負けない速度はキープして、間もなくリズヴァーンは教えて貰った病室の前にたどり着いた。



がらり、と戸を引くと、音に反応して中にいた看護士とベッド上の患者が同時に振り返る。

「、望美、」

怪我は、と問うまでもなかった。
左腕と左足に、包帯が巻かれているのが直ぐに見えたから。


半ば喘ぐようにして発せられた声に、ベッドに腰掛けていた望美は微笑んでみせた。
大丈夫です、と、言葉よりも態度で示したくて。


「……具合は」

感情を押し殺した声に、胸が痛む。
心配させてしまったのだと、その声音がなによりも雄弁に語っていた。

「打ち所が良かったみたいで、打撲で済みました。入院とかもないし、今日はもう帰れるって」

「バンパーにうまい具合に乗ったんでしょうね。車の速度も遅かったし、不幸中の幸いでした」

居合わせた看護士にもそう言われ、望美は悪運が強いんです、と言って笑った。


「お大事にね」

「あ、はい、有難うございました」

看護士が、一礼して病室をあとにする。

固まったままのリズヴァーンに、望美は困ったように微笑みかけ、そうして両手を伸ばした。

「だから、大丈夫です」


警戒している子犬のようにそろりとベッドの脇に近寄り、リズヴァーンはそっと伸ばされた望美の手に触れる。


「……望美」

「はい」

「……心配、した」

「すみません、先生」

「何処かに、行ってしまいはしないかと」

「どこにも行きませんよ。傍にいます」

大きくて厳つい手をきゅっと握り、その手に頬を寄せた。



リズヴァーンの過保護を、望美は笑い飛ばす気にはなれない。

幾多の運命で、望美の死を誰よりも多く見てきたのは、リズヴァーンなのだから。

2人とももう逆鱗を持っていない今、やり直すことは出来ない。


だからリズヴァーンは誰よりも恐れるのだ。

死という運命が、もう二度と自らが変えることの出来ない事象が、現実となることを。



甘えるようにリズヴァーンの袖をくん、と引くと、リズヴァーンはその分だけ歩を進めてくれる。

泣きそうなほど沈痛な面持ちをしたリズヴァーンの頬に手を伸ばし、触れ、目線をあわせてくれるのを待って首元に手を回す。

こちらの世界に来ても衰えない見事な体躯に抱きつくと、洗い晒しのシャツ越しに体温が伝わってきた。


筋張った手が、宝物を扱うようにそっと望美の頭を撫で、背を抱き返してくれる。

癖のつよい金の巻き毛が、望美の頬を掠めては離れた。


「だから傍にいてくださいね。ずっと」

「ああ。お前がそう望むならば」




運命を、2人で越えよう。

たったひとつきりの運命を、大切に大切にして。



END






久しぶりのリズヴァーン。……久しぶりすぎる(笑)

テーマは「外見は大人でも精神はいかにも子供なリズヴァーン」でした。
普通は瞬間移動しちゃうんですが、あの容姿の兄ちゃんが病院がっつがっつ走ってたらイイなぁ、とか思います。無駄に萌える。


因みに事故の話は友人の実話ネタから。
チャリ乗ってたら横からでてきた車にぶつかったそうで……

車には気をつけましょうね、ほんと!ドライバーも人間ですから、ドライバーの責任だけでなく、自分が身を守る意識を。


……なんだこの交通安全月間は(笑)


20090202

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