成人式と彼ら。
09'01拍手御礼SS
「成人式と彼ら。」
(九郎×望美)
「今日は、やけに華やかだな」
きょろ、と辺りを見回して九郎が呟く。
その言葉と共に吐く息の白さに対して、街を歩く女性たちの一部は赤やピンクの綺羅綺羅しい振袖姿に包まれていた。
「着物なぞ、こちらの世界に来てからはついぞ見なかったのに。何かあるのか?」
「今日は成人式なんですよ」
マフラーに口元を覆ったままもごもごと言う望美の台詞の意味がわからず、九郎は首を傾げる。
「成人式?」
「元服のことですよ。こちらでは二十歳がそれにあたるそうです」
「今は昔ほど仰々しいことしないけどな。式に正装してく、ってその程度だ」
九郎より遙かに早くこちらの世界に順応した弁慶が、望美の言葉を通訳してやり、将臣が更に注を加えてやった。
そうか、と瞳を瞬かせる九郎の眼差しは、目新しいものを見るように澄んでいる。
「望美もあれを着るのか?」
「まだ先の話ですけどね」
「そうか。楽しみだな、お前ならさぞや綺麗だろう」
「……っ!」
望美ならどんな色でも似合うだろう。
道の向こうに見える少女たちのような、桜色にえんじ色。
いや、薄紫でも萌葱でもいいかもしれない。
そんなことを考えていたら、将臣のにやにや笑う顔や弁慶の呆れたような顔、そうして望美の真っ赤になった表情に気づかなかった。
「……九郎……」
「ん、なんだ?」
「いやあ、お前ある意味スゴいわ」
「は?」
急に言われても、九郎にはその言葉の意味がさっぱりわからない。
訊ねようとして、傍らで黙ってしまっていた妹弟子を振り返った。
「なあ、望美」
「……っ、なんですか!」
マフラーに口元は隠されているけれど、耳の赤いのは隠しきれない。
その赤さに気づかないのは、このメンツでは九郎くらいなものだ。
「いや、こいつらが……、?何を赤くなっている、熱でもあるのか?」
言った瞬間、弁慶と将臣が二人して「あ―あ」という表情をしたことに、当事者の二人は気づかなかった。
瞬間的に、望美の顔色が照れから怒りの赤に変わる。
「九郎さんの、ばかあっ!」
「おい、望美!?」
せっかく素直に誉めてくれただから、嬉しかったんだから。
本当は、ばか、なんて言わずに、ありがとう、と言えばいいのかもしれないけど。
でも九郎相手に、それはとてつもなく難しくて。
「いこうっ、将臣くん!」
べしいっ、と九郎の背を叩くと、望美は駆け出しとしまった。
「あ―あ、馬鹿だな九郎。堂々と褒めるなら褒め倒しゃいいのに」
ま、無理か、と将臣は望美の後ろ姿を見ながら軽く笑う。
「全く。とんだ迷惑です、さっさと謝ってきなさい」
弁慶にじとりと睨まれて、九郎の髪が力なく垂れる。
道の先では、望美がちらり、と背後を気にしつつも膨れていた。
END
成人式ネタです。
最初は違う話だったんですが、何故か九望にそれた(笑)そちらも機会があれば。
私の中では、未だに成人式=15日が抜けません(^_^;)
20090112
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