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ここはパラダイス('10/7拍手御礼)


おや、と望美は辺りを見回した。

天井とか、窓の外とか、教室のそこかしことか。


白いスカートの中に豪快にばさばさと風を送る。

最近まとめっぱなしだった髪がおりているのに気付いて、うなじからばさりと払いのける。

そうして、ちょっと感動したように呟いた。



「……涼しい」



ここはパラダイス



「……お前、机の上で大の字で寝るなよ。一応女子高生だろ。一応恥じらえよ。パンツ見えっぞ」

暫くして降りかかった将臣の呆れ声は、望美の予想通りの台詞を喋った。

「中はいてるから平気だもーん。だって、涼しいから嬉しくて」
「まぁ確かにな。夢の中に外の気温はあんま関係ないんだな」
「将臣くんも、鎧つけっぱなしでも暑くない?」
「ああ、快適だな」

望美が上体を起こした先で、鎧姿の将臣は特に着崩すことなく平然と立っている。


夢の外、つまり京の夏は夜だってじんわり暑くて、例え現代より涼しかろうとクーラーも扇風機もない世界は望美にとても優しくない。

だから望美は、自分が鎧姿で教室にいることの違和感よりも、季節にそぐわぬ涼しさゆえに、ここが夢だと判じるに至ったのだ。

「うーん、いつまでもここにいたーい」

そういうわけにはいかないことは、もちろん知っているけれど。

「どうせ避暑ならもっと環境のイイとこに行きたいぜ」
「避暑かぁ。軽井沢とか?」
「北海道とか」

熊野とか、と続けかけて、望美は言葉を呑み込んだ。

どうせ夢の中にいるなら、現実から思いっきり離れていたい。自分のためにも、恐らく数日後にまさに熊野で再会するであろう将臣のためにも。


そう思ったら、自然と望美の両腕が将臣に向かって伸ばされていた。


「将臣くん」
「なんだよ」
「ん」
「なにが『ん』だよ、手ェ伸ばされても何にも出てこないぞ」
「涼しい。毛布代わりになって」
「…………俺を何だと思ってるんだ」

そうは言っても、口調や渋る表情とは裏腹に、ちゃんと近づいてきてくれる将臣の優しさが嬉しい。

「涼しいのがいいんじゃなかったのか」
「こたつでアイス、クーラーでホットココアが至高の贅沢というものですよ!」
「でんこに謝れ」
「今は電気使ってないもーん」

机の上に座ったまま、手が届く位置にきた将臣の羽織の裾をひく。
大人しく傍に立った将臣にくるりと背を向けて、上体を将臣のそれに預けて。

将臣の筋張って筋肉質な両腕をマフラーがわりとばかりにえいやっと自分の前に回せば、ちょうど望美が将臣に抱き込まれる形になった。

ほう、と満足げな溜め息を漏らす望美の瞳に、苦笑する将臣の表情は映らない。

「あったか〜い……幸せ〜」
「ハイハイ良かったな」
「うん良かった。すごい快適。代わってあげよっか?」
「断る、首絞められかねねーし」
「そ、そんなに腕短くないよ!」
「……俺はこれで十分だよ」
「私も十分だけど……」


ぎゅ、と望美を囲む腕に力が入った気がしたのは気のせいだろうか?

腕と、密着した背中からは、温もりと、将臣の気配と、将臣独特の空気が伝わってくる。

あぁほんとに幸せ、夢が覚めなければいいのに。


「でもね将臣くん」
「何」
「私きっと、真夏の暑さの中で将臣くんにぎゅってされても、きっと幸せだと思うよ」




だから、この距離も、この幸せも、夢から現実に連れて行きたいんだ。

そう言って笑うと、将臣がくしゃりと頭を撫でてくれた。



END



20100723

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あきゅろす。
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