雪が降ったら【銀髪】 '08/12拍手御礼SS 「雪が降ったら」 冷たい風が、頬を撫でていく。 冬は嫌いじゃない。好きかと問われても返答に困ることは確かだが。 ひょう、と寂しげな風の音を耳に、知盛は曇り空を見上げた。 西の空から、どんよりとした灰色の雲が広がってきていて、知盛の表情を暗く陰らせた。 (この分なら……) 「随分と、曇ってきましたね」 声に振り返るまでもなかった。 己に瓜二つと称される弟が、傍らで同じように曇天を見上げる気配があったから。 「あぁ。雨か……この分なら、雪が降ってもおかしくないな」 「そうですね。大体、毎年雪が降る時分ですし」 雪、か。 ぽつり、と心中で反復する。 風雅な事にさして興味もないが、雪見酒ならば話は別。 きっと、経正の琵琶やら何やらを酒の肴に、愉快に飲めるだろう。 「雪が降ったら雪見酒、ですか?」 くすり、と笑う声が聞こえた。全く、似ているのは外見だけのはずなのに、滑稽なぐらい心情を正確に読んでくる。 まぁ、それだけ分かりやすい性格をしているのだろう。敢えて隠そうと思った試しがない。 「俺は経正や惟盛のように、風雅というものにとんと縁がないものでな」 「ご謙遜を。――では兄上、雪合戦でもいたしましょうか」 「……雪合戦?」 奇怪な言葉を聞いた気がして、初めて弟の方を振り返る。目があった重衡は、子供のように瞳をきらきらさせて、心底楽しげにね?と首を傾げた。 「雪合戦ならば、風雅と縁はございません。それに、『合戦』ならば兄上も得意としていますでしょう?」 雪合戦など、宮中への参内と同じぐらい興味がない。 ……が、確かに、暇を持て余した身体には、いい刺激になるかもしれなかった。 「……俺が勝つから、一晩酌をしろよ?重衡」 「では、私が勝ったら、兄上にはひとさし舞っていただくことにいたしましょう」 「……雪が降ったらな」 「ええ、雪が降ったら」 雪が降る前に、二人の間で火花が舞い散って。 それでもどこか心地いい二人だけの空間を、暫く空を眺めて過ごしたのだった。 END 師走だからといって安易にクリスマスネタに走りたくない! ……と思ったら不思議なものが出来ました(笑) 戦で忙しくなるずっと前の話です。 20081203 [次へ#] |