もう一緒に寝てあげない!
★38
知ってたなら教えろよ―!
と、羽根をばっさばっさ揺らして憤慨するサザキが容易に思い描けてしまい、那岐は面倒そうに肩を落とした。
『那岐―、姫さんどこにいるか知らねぇ?』
「……知ってる」
知ってるというか、知ったというか。
今、目の前にいる。
サザキの探していた「姫さん」、自分にとっては異世界からの同居人が。
……しかしどうして、自分の絶好の昼寝ポイントを彼女は占拠しているのだろう。
口を小さくあけて眠る姿は愛らしいが、それを見慣れた那岐にしてみれば『マヌケなカオ』に他ならない。
「千尋。千尋?」
名を呼び揺らしてみても、さっぱり反応しない。
呆れた、と言う代わりに、ひとつため息がこぼれた。
こんな昼間っから寝ているなんて珍しい。
豊葦原に戻ってからこっち、兵の采配だのこちらの世界の勉強だの、毎日目まぐるしく駆けている彼女なのに。
「全く、なんでよりにもよってここで寝るのさ……。ほか行きなよ」
ぶつぶつとぼやきながら、千尋の隣に腰掛ける。
……隣に座ったのは、単にそこが一番お気に入りの場所だからにすぎない。
日の差し込む具合も、風のさやさやと吹き込む感じも。
……例えば、日を受けて輝く甘い黄金色の髪や、スカッとするぐらい裏表なく笑う爽やかさに、似ているのかもしれない。
(……なんて、ね)
バッカみたい、と自嘲を口元に浮かべつつも、隣で幸せそうな寝息をたてる少女の髪を櫛るその手はどこまでも優しかった。
*****
夕刻。
日が沈み、そろそろ火を焚こうかという時分に、ばたばたばたっと天鳥船を駆ける足音が響き渡った。
「風早、ごめんなさいっ!」
「おや、千尋」
足音の主の姿を認めて、風早が振り返る。
―――ぱち、と、まばたきを繰り返した。
不思議な間を持った風早に気づかず、千尋は真っ青になったままひたすら風早に謝る。
「今日は会議もあったのに、風早と出かける約束もしてたのに〜〜っ」
「今までどこに?」
「那岐を探しに、那岐の好きなお昼寝の場所に行って、…そのまま……」
「ああ」
どうりで、サザキが探しても見つからなかったわけだ。
那岐の隠れ家を知っている人間は少ない。……少なくとも、サザキは知らないと断言出来る。
「たまにはお休みもいいでしょう。もうすぐご飯だし、忍人にもそのとき謝ればいい」
「う、ん」
「それに、今その姿で行っても、忍人が驚いてしまうでしょうしね」
「………え?」
今度は千尋が不思議そうな表情を浮かべる。
風早は苦笑すると、読んでいた書簡を置いて千尋の頭に両手をやった。
本来なら何もないはずの頭頂部で、うにっと「なにか」をもてあそぶ。
「千尋、いつ耳が増えたんですか?」
「え?……えぇ!?みみっ!?」
「それに、この頬」
片手は「耳」を触りながら、もう片手が千尋の頬をなぞる。
「いつヒゲが生えたんですか?可愛い猫さん」
「猫っ!?風早、何言っ、」
頭に手をやり、そして、
「―――――っっ!?」
硬直した。
確かに、自分の頭に「なにか」がくっついている。
耳、と風早が言ったソレは触れればかさかさと葉擦れの音がする。
頬に手を当てれば、普段の肌にはないざらりとした違和感。
極めつけの窓にうつった己の姿、それは、葉を繋ぎあわせて形どられた耳――猫か犬のような――と、細く裂いた葉を頬に貼り付けて、まるで、
「かっ、風早っ、」
「はい」
「………猫?」
「みたいですね。可愛いですよ」
全く動じずにっこりとほほえむ姿は、親バカだ―としか思えない。
こんなことする犯人は――前科もあるし――1人しか思いつかなくて、千尋はも―っ!と部屋いっぱいに響きわたる声で叫んだ。
「那岐の、ばかぁ――っ!」
END
那千のつもり。(これでも)
那岐は知らんぷりしてるくせに千尋にちょっかいだす可愛い子だと思う。
因みに前科ってのは漫画版のくまちゃんです(笑)
20090622
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