しろくそまれ§1
「無理だ」
たった一言。
そのたった一言で、千尋がクリスマスを忍人と過ごせる可能性はあっさりと消え去った。
忍人と出会って、初めてのクリスマス。
そもそもこちらの世界にクリスマスなんてあるはずないのだけれど、風早が暦を計算して大体の時期を割り出してくれたのだ。
だから、その日ぐらいは女王稼業を一休みして、忍人とどこかに出掛けたかったのに。
「どうしてですか!?」
諦めきれずに食い下がるが、忍人の答えはそっけない。まるで心も凍らせる北風みたいに。
「軍の実践演習がある。将である俺が休むなど論外だろう」
「でも、」
「これから寒さが厳しくなる。野生の獣や何やらが邑を襲わないとも限らない。兵にはその備えをさせなければ」
「、っ」
忍人の言うことは全く正論だ。
それに、ただ戦うための備えではなく、千尋の国の民を護るために備えようとしてくれているのだ。
異論の出るはずもない。
……はずもない、のだけど。
言葉を喪ってしまった千尋の様子に気づきもせず、忍人は空を見上げて息を吐いた。
ふう、と憂鬱そうな溜め息は、白く濁ってけぶる。
「……降りそうだな」
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