痛みの正体【頼あか】
声を聞くたび
“何か”がよぎって
姿を見るたび
苛立ちと焦燥感が募り
触れる度に
胸が痛む………
「頼久さん」
背後から霧雨の如く柔らかく降り懸かった声音に、源頼久ははっとして振り返った。
視線をやや下げた先に、小さな娘がいる。
あかねと呼ばれるその娘は、年はそれなりに大人の女性と言えそうなのに、姿は少年と見紛うほどに簡素。
あどけない顔立ち、幼い肢体。
薄桃色の髪が春の桜を連想させる、この娘と先日“初めて”出会ったときは、娘が尊き人物であろうとは露ほども思い当たらなかった。
……否、それは今も変わらない感情かもしれない。
主君である藤姫がこの娘を尊び、手ずから世話をしている姿を見るまで、これがそういう身分なのだとは信じられなかったのだから。
「……神子、殿」
「どうかしたんですか?珍しくぼうっとして」
「……失礼致しました、職務の最中に」
「そんなことを言いたかったわけじゃなくって」
頭をあげてください、と、両肩に小さな手がのばされる。
気遣うように、けれどしっかりと支えようとしてくれる両手は、確かに暖かく慈愛に満ちているように思えた。
「具合はどうですか?」
「は?……どう、と申されましても。別段変わりはございません」
感じたままを答えただけなのに、悲しげな表情をするのは何故なのだろうか。
「、――――ね」
「……?今、なんと」
またぼうっとしてしまったのか。
か細い声を聞き逃してしまい慌てて問い質すと、あかねは俯いていた顔をあげた。
見上げてくる眼差しが、何かをこらえているようで、それでも強い意志を秘めて。
頬が僅かに朱に染まっているのは、見間違いだろうか?
「思い出してください……ね」
なにを、とは問い返せなくて。
なにも忘れた覚えなどない、そもそもこの少女とまみえたのは“つい最近”なのだ。
なのに、なぜか胸が痛い。
脳裏で誰かが囁いている、思い出せ、思い出せ、と。
大切な記憶を……
(なくして、いるのか……?)
胸が、 いたむ 。
END
頼あか初挑戦。
3以外のもの書いたの初めてだ……!!!
前にアンケートで3以外に何か、みたいなものを聞いてみたら、1で頼あか、って言ってくださった方がいまして。
神子命とは程遠い漫画版ですが(爆)これはこれで良いのではと。 ←自己満足
好意があるのにそれを忘れちゃうって、どれほどの苦しみだろう……
20081123
無料HPエムペ!