08.ひとりじゃないって気付くでござるよ 雪が降っていた。 ぼんやりとした視界の中、埋まる灰色。 僅かに震える肩に、触れる赤髪。伝わる体温は低いのに、回された腕は、何故か温かくて――涙が零れた。 優しさを取りこぼしてしまわないように、すがるように、思わず“きゅ……”とそれを握りしめる。 「逃げるな」と言われているような気がした。 実際は違ったが、とじ込められた身体は、それを肌で感じていたそっと、背を離れた手が、髪を撫で付ける。そのゆったりとした動作に、思わず目を細めた。 「ひとりじゃないことに気づくでござるよ」 普段なら笑ってしまいそうなそんなクサい台詞さえも、今は涙を誘う以外の何物でもなくて――笑おうとしてさらに止まらず溢れてくるそれに、声を出して、しがみついて泣きじゃくった。 散々泣いて、泣いて、泣いて――。 雪の中冷えてしまった身体を囲炉裏の前で抱き合った。 子供っぽさに感じていたコンプレックスのおかげで、彼にこうして甘えたのは本当に久しぶりだった。 こんなときじゃなければ、もっと甘ったるく砂糖いっぱいの時間を過ごせていたかも…なんて思ってしまうくらいに。 けれど、目を閉じれば浮かぶのは、最期にみた両親の顔で。 たまらなく、さびしくなった。 本当に、ひとりぼっちになってしまったのだと、感じてしまって。 そこから逃げ出すように、優しい夢をみようと、そう思っていた。さっきまでは。 ――今。 「…拙者が、いる、……ずっと、傍に…いるでござるよ」 「……うん」 やわらかな剣心の声に包まれて。 まだまだ、生きたいと思える自分がいる。 「だから……、一緒に生きよう」 「死なないで」 ひとりにしないで。 「ああ」 「本当に?」 「ほんとう」 「いてくれる?」 彼の傍で、生きていきたい。 「君と、いる」 優しさが、言葉が、気持ちが、染みていくと思った。 いつの間にか止まった涙のあとを、剣心が拭ってくれる。 その手をとって、初めて自分から抱きついた。 愛してる、と囁いて。 (人生を二人で分け合おうか) [*前へ][次へ#] |