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TOX
no title/アルジュ

(オイオイ…どうなってんだよ!!)



アルヴィンがル・ロンドに着いたのが今朝早く。
アルヴィンの元に手紙が届いたのは昨日の夕方。
手紙に書かれた内容は一昨日の出来事を記していた。


手紙の内容。
結末から言うとジュードが記憶喪失になったらしい。

レイアのと思われる文筆で書かれていた。


森で怪我をした街の人を助けに行ったジュードであったが、途中魔物と交戦となり、その最中に頭を強く打ったらしい。
傷などは酷くないものの、目を覚ましたジュードの記憶は一部分だけが欠けてしまっているようだった。


アルヴィンは手紙を入れている上着のポケットに一瞬触れると、ジュードの家である治療院へと走る。




「ジュード!!」



勢いよく開け放ったドアの先には、カルテを手に、お爺さんと話をしているジュードが立っていた。
そんな彼の姿を肩で息をしながらアルヴィンは呆けた表情で見つめる。



「ジュー…ド?」

「…?えっと…新規の方ですか?この街の人じゃないですよね?」

「……えっ、」

「アルヴィン君!」



奥から出てきたレイアがアルヴィンの言葉を遮る。レイアはジュードに優しく微笑みかけた後、アルヴィンの手を引き治療院から連れ出した。

ジュードは2人が出て行った扉を見ながら小さく首を傾げると、またお爺さんの方へと顔を向けた。





「…レイア……ジュードは…」

「手紙に書いたままだよ。ジュードは元気!…ただ、」

「記憶が……覚えてることは?」

「旅をしたことは覚えてるみたい。おじさんやおばさん、私のことと…ミラのことも…覚えてた」

「………お、れは……俺のことは…忘れちまった、ってか?」

「で、でもねっ?一時的なものだって、おじさん…言ってたし」




アルヴィンは頭を乱暴に掻き毟ると地面を一度だけ蹴る。レイアは少し肩をふるわせてはいたものの泣いてはないようだった。

しばらくの間二人は無言だったが、レイアは自分の頬を両手で軽く叩いた。



「…とにかく中に戻ろ?ジュードが心配するかもしれない」

「俺のことは心配するわけないだろ」



アルヴィンは自分のことを嘲るように鼻で笑うと治療院の中へと戻るレイアの後に続く。


ジュードはもうその場にはいなかった。
レイアがお爺さんに尋ねてみると、ジュードは奥の部屋へと行ったらしい。

アルヴィンは向かおうとするレイアの肩を掴みそれを阻止する。振り返り、見上げた彼の顔付きは怒っているような、悲しんでいるような、何とも言えないものだった。
そしてレイアの返事を待たずに、アルヴィンは一人で奥の部屋へと向かう。




「よぉ、青少年」

「貴方はさっきの……あ、ここは関係者以外立ち入り禁止ですよっ」

「おたくの知り合いでも入っちゃダメなわけ?」

「僕の…知り合い?何を言って…貴方とは初対面じゃ…」

「初対面、ねぇ……ホント…覚えちゃいないのか?俺のこと」

「えっ、」

「一緒に旅しただろ?」

「一緒に、?」

「思い、出せよ」

「…あ、あの、」

「思い出せよ!!ジュード…!」



不思議そうな顔付きで見てくるジュードに苛立ちを抑えきれなくなったアルヴィンは声を上げ、相手の両肩を強く掴む。その手を振り払おうとジュードは思ったが、自分の前に立ちはだかる男の顔をうかがって見ると、怒っているどころか今にも泣きそうな顔をしていた。




「………僕は、知ってるはずなんですね?貴方の、」

「アルヴィン、だ」

「え…?」

「貴方じゃないだろ?ジュード」

「………アル、ヴィン…」

「そうだよ………バカ野郎っ」



アルヴィンはそのままジュードの身体を引き寄せ、抱きしめる。

ジュードの位置からは顔が見えない為、今相手がどのような顔をしているかわからなかった。
ただ、ただ抱き締められる腕から彼の暖かさが伝わってくるだけ。その暖かさに何かを感じたのか、ジュードはすがるようにアルヴィンの胸元へと頭を寄せた。



「…ごめん、なさい」

「……………」

「ちゃんと、思い出すから…貴方の、アルヴィンのこと……だから、」



ジュードの手が自然にアルヴィンの背中へと回される。
アルヴィンはそれに応えるように抱き締める力をさらに強めた。



─泣かないで?




開けられていた窓から2人の頬を優しく撫でるように風が入り込んできた。




【泣いているのは、】

「お前の方で…俺は泣いてなんかいねぇよ」
「アルヴィンが弱いってこと僕知ってるよ?……、えっ」
「もういい。今はもう何も、考えなくて…思い出さなくていい」





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