若者たち 8 「…ぃいっっくしょい!!!・・・・・・っぁあ〜…」 「…きったねぇなぁ」 鼻水たれちった。勢いで飛び散ってしまった鼻水は目の前の次郎のノートにシミをつけた。あ、やっべぇ〜 …幸い次郎は携帯をいじってて気づいてなく、俺はこっそりノートを閉じた。 「なになに木村風邪ひいたの?うつすなよー」 「ちがうよ花粉症」 ずずっと鼻をすする俺と次郎に近づいてきたのは、吉岡浩哉。 進級して数日、クラスメイトの顔と名前も徐々に覚えてきた。あの日から妙に藤原に懐かれたおかげで、藤原の仲間からも話しかけられるようになった。さわやか笑顔で俺の隣の席に座ったこの男はどうやら藤原と一番仲が良いらしい。派手グループにはいるものの、性格はさっぱりしていて話しやすい。普通にいいヤツ。 「あ、俺も花粉症なんだよ。今年は出なかったんだけどね。なんか知らんけど1年おきに発症すんだよ俺!」 変だよなーははっ!と覗かせる歯がすげー白い。かっけーなぁ…遊び人風な藤原とは違って好青年だし、俺が女だったらこんな感じの男を好きになるな。マナミちゃんを取られたのが藤原じゃなく吉岡だったなら俺だって・・・・・・・・・・って違うだろ! まだ引きずってる自分が女々しすぎて少し落ち込む。失恋を乗り越えるには新しい恋だってよく言うけど、そう簡単に人を好きになるわけでもない。その前に俺なんかじゃ女の子と仲良くなるのも至難の業だ・・・。 「どーしたぁ?ぼっとして」 考えこんでいると目の前に吉岡のどアップ。うぉ、近くで見てもイケメンはイケメンだな。アーモンド型のでっかいキレイな二重が羨ましい。 「んぁ?あー…彼女欲しいなって思ってた」 「ははっ傷ついた心を新しい出会いで癒したいってかぁ」 う・・・バレバレでちょっと恥ずかしい。いまだに携帯をいじくってる次郎がチラリとこちらを見て、すぐに画面に視線を戻した。なんだよ!彼女欲しいって思っちゃいけないのかよ! 「しょーがねーなー俺が良い娘紹介してあげよっか?」 えっ!?いや…そーゆーのは別に求めてなかったんだけど・・・吉岡はごそごそと携帯をポケットから取り出した。 「木村はどんな感じの娘がタイプ?俺的には年上とか合いそうな気がすんだけどっ」 携帯を開いてカチカチ親指を動かす。・・・はえぇなー自分自身メールを多くするタイプではないから関心してしまう。つーか断らなければ!紹介は苦手だ…うまくいかなかったときに紹介してくれた人になんだか悪い気がしちゃうじゃん?いつ断わろうかとタイミングを見図る。 「あ、この人とかいいかも!3年のさー…ぅわっ!」 吉岡の右手から携帯が消えた。いつの間にやってきたのか、吉岡の背後に立つ藤原の手にその携帯は移っていた。 「ちょ…ビビったし!勝手に人のケータイ取んなよなっ」 「泉水にはヒロの周りの女は乗りこなせないよー」 乗りこな…っ・・・・・正直その通りだけどコイツに言われるとすっげームカつく。じろりと睨むが気にせず俺に近寄ってくる。 「泉水数学の課題やった?俺5限で当たるからみーせてっ」 「・・・・・・・・吉岡、悪いけどやっぱ俺そーゆーのはいいや。ありがとな」 チャラ男は無視して吉岡に断わりを入れる。そっかそっかと気にする風でもなく携帯をしまう…やっぱ良い奴だ。付き合いやすい。 「ちょっとぉー…泉水って俺に対してだけスルースキル高すぎない?」 いちいち相手してると面倒くさいんだよっ!ファミレスで携帯交換してから毎日意味分かんないメールくるし、学校でも遠くではしゃいでると思ったらいきなりやって来て髪の毛ぐしゃぐしゃにしたり「かまってー」とか言ってきやがる。かまってくれる相手なんて腐るほどいるだろ。まぁ…マナミちゃんとのこともほとんど諦めもついて、最初の頃程の嫌悪感はなくなったけど。 「っつーか別に俺に見せてもらわなくても・・・・・・・っ…ひぃっっっくしょいっ!!」 「おおっ!木村のくしゃみはおっさんくさいなっ」 「泉水きったなーい」 うっさいなお前ら!吉岡にまでおっさん言われた・・・地味にショックなんですけど。 「お前・・・両穴から出てんぞ。不快だから早く鼻かめ」 今まで黙って座っていた次郎がようやくしゃべった・・・ごめん、存在忘れてたわ。次郎は机の中をゴソゴソ探ってポケットティッシュを取り出し、何枚かをひっぱり出して俺の顔に向けた。 「ほら」 「ん」 チーンッ。あースッキリ。 鼻をかんだティッシュを丸めて俺の机の上にポイッと投げ捨てた。・・・ゴミは自分で捨てろってか。 ふと、さっきまで話していたイケメン二人組を見るとポカンと口を開いていた。まぬけな顔してもカッコイーんっすね。先に口を開いたのは吉岡。 「親子かっ!!」 俺の肩にビシッとつっこみを入れてきた。面白いなコイツ。 「そーだよ。こいつがいないと俺なんもできねーの、いつもありがとねジローママ♪」 「・・・キモい、しね」 とびっきりの笑顔で言ってあげたのにぃ。次郎と出会ってから何回キモいって言われてんだろ…軽く三ケタ超えてる気がする。 「ん?あれ、恵介は?」 いつの間にか藤原はこの場にいなくなっていた。便所にでもいってんじゃねーのーと笑いながら吉岡と話しているとダダダダダダッ!と廊下を走る音がしてきた。徐々に音は近づき、ガラッと教室の入り口を開ける音に変わる。なんだなんだっ!? ・・・走っていたのはどうやら藤原らしかった。なにやってんだあいつ。ハァハァ息をきらしながら俺たちのもとへ戻ってきた。 「恵介ー?どこ行ってたの?」 「トイレ」 やっぱりねっと言う吉岡の前を通り過ぎ、俺の前に立ちスッと右手を掲げる・・・・その手の中には…ティッシュペーパー・・・否、トイレットペーパーの切れ端。 「泉水、鼻水出して!」 「・・・・・・はっ!?」 いきなり何言い出すんだこいつは!?相変わらず思考が読めねー!!頭上にハテナマークを浮かべる俺を無視してなおも藤原は言う。 「鼻水っ!出してっ!!お・・・俺がチーンッてしてあげる!!」 「・・・っっバッカじゃねぇのお前!?何でお前に鼻かまれなきゃなんねーんだよ!っつーかそれトイレットペーパーだろ!しかもトイレから持ってきたやつ!そんなもんで誰がかむか!!カピカピに荒れるっつーの!!」 まくし立てて言ってやるが「じゃー普通のティッシュなら良いんだ!」とかなんとか言ってその辺にいた女子にティッシュを要求しに行ってしまった。 俺があっ気に取られる横で、吉岡は大爆笑。次郎は呆れた様子でティッシュを袋ごと俺に渡した。中から2枚取り出し、丁度良く丸めて鼻の両穴に突っ込んだ。 戻ってきた藤原に「あぁ!不細工になってる!」とティッシュを抜かれそうになったので、思いっきり腹に蹴りを入れてやった。 俺は、明日からきちんと花粉症の薬を飲もうと固く決意した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |