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若者たち
7
「泉水、けーたい教えて」

ファミレスを出たあと駅へと向かいながら泉水の顔をのぞいてお願いしてみる。少し目を細めて眩しい表情を見せると女の子なら二つ返事で教えてくれる。

「は?なんで?」

・・・そーだよね。泉水は男の子だもんねー。でも俺は泉水のアドレスと番号が知りたい。仲良くなりたい。

「いーじゃん俺たち友達じゃんっ!一緒にご飯食べたんだからもー超マブダチ!!けーたい知らないなんてありえなーい」

「意味わかんねー!」

しばらく駄々をこねてみると泉水はしぶしぶポケットから携帯を取り出した。俺の粘り勝ち!嬉々と携帯を合わせて赤外線の受信ボタンをポチリ。――瞬間、風が吹いて泉水の背後にある満開の桜の木が花びらを散りばめた。一片の小さなそれが、泉水の頭にちょこんと乗っかった。俯いて携帯を扱ってる泉水の頭を撫でくりまわしたかったけど、さらさらの黒い髪にくっついたピンク色が妙に可愛らしくてしばらくそのままでいてもらおうと頭に近づけようとしてた手を下ろした。




泉水の存在を知ったのは、去年の冬。
掃除の時間ジャンケンで負けてさみーさみー言いながらゴミを捨てに行った帰り。近道の為に通った廊下の前の空き教室に人影をみつけて足を止めた。そこにいたのは可愛い感じの女と見たことない少年。あ、あの女知ってるわーこの前佐藤がヤったって言ってた。おいおいこんなところで始めちゃう気〜?
ニヤニヤしながらのぞいているとどうやら違うらしいことに気づいた。少年は顔を真っ赤にして肩を震わせながら、好きだ、付き合ってほしいと女に告げた。
ぅわぁ〜、ありゃ童貞だな。超ピュアってる。見た感じもなんか平凡だしどうせ断られるんだろうと立ち去ろうとしたとき、いいよ。という女の声が聞こえた。
マジか!?と思って顔を戻すと。信じられないといった表情の少年の目にみるみる涙が浮かんできた。ここで泣くのはカッコ悪いと感じたのか、涙をグッと押さえて優しい瞳でふわりと笑った。心底嬉しそうな泣き笑いする少年を見て、あぁ、本当にあの女が好きなんだなーと、同時に、あの笑顔を向けられる女を少しうらやましく感じた。


一月ほど経った頃、放課後教室で数人とぐだぐだ話してると、窓からあの二人が校庭を歩く姿が見えた。少年はどこかキラキラした相変わらず優しい瞳で女を見つめている。真剣に恋してんだなーうまくいってるみたいで何よりだ。

「あ、あれマナミじゃん」

俺の隣に座って妙にくっついてくる女が言った。

「なになに?知り合いー?可愛い子じゃん」

「えー?可愛いけどーあの子結構ひどいんだよ。あの隣にいる子、付き合ってることになってるらしいんだけど良いように利用してるみたい」

「・・・・・利用?」

一瞬真顔になってしまった俺に女は気付かずに話し続ける。女って本当こーゆー話すきだよね。

「なんか超愛されてるみたいでーなんでも言うこと聞いてくれるから付き合ってるらしいよぉ。なんでも買ってくれるって。清純派ぶるのがストレス溜まるらしくってさー夜はイケメンひっかけまくってるってーひっどいっしょ?」

「・・・・・・・ふ〜ん・・・」

次の日、俺はあの女…マナミに話しかけた。


少年からマナミを奪った次の日、遠くから俺とマナミを見つめる視線に気づく。睨まれてるわけもなく無表情だったが、その瞳の色は怒りや哀しみ、嫉妬、あきらめ…様々な感情が浮かんでいるように見えた。・・・まだこんな女が好きなのかよ。何故か腹が立ってマナミを抱き寄せると、少年は目を見開き踵を返してその場を立ち去って行った。




進級して、新しい教室で騒いでると泉水の叫び声が聞こえて同じクラスになったことを知った。泉水、存在感あんまりないから教室に入ってきてたこと全然気付かなかったんだよねー。思わず俺も叫んでしまい、俺の顔を見つめる泉水に何を言っていいかわからずつい口から出たのはあんなひどい言葉だった。

始業式後の自己紹介で初めて名前を知った。木村泉水。意外とかわいらしい名前に口がにやけてしまった。こっそり目線だけで泉水を観察する。一緒にいる人相の悪い男とはしゃいでいる顔は楽しそうに笑っている。たまにこちらが気になるのか、ちらりと向ける視線はすごく冷めてるのに!!

なんか悔しい。そんな目で俺を見ないでよ。

モヤモヤしたままの俺は遊びに行こうと誘う女をテキトーにあしらい、教室から出ていく泉水を追った。
嫌がる泉水を無理やりファミレスに連れていき、昼食を食べる。しばらく無視されていたが、食べ終わる頃に話し出してくれて嬉しくなった。

マナミの名前を出した泉水に、まだ忘れてないのー?と内心不満に思いつつマナミの本性をほのめかしてみた。同時に、自分自身の男女の付き合い方も披露してしまいまずったなーと少し落ち込んでしまった。軽蔑されてしまっただろうかと不安になってると、ポカンとした泉水が見当違いなこと言ったもんだから思わず噴き出した。
笑いが止まらない俺に向かって「おっさん言うな!」と顔を赤くして叫んだあと、泉水は微笑んだ。


初めて、俺に向かって笑ったんだ。

そう実感したとたん、なんだか体がむずむずする感覚に襲われた。嫌な感じはしない。小さく笑う泉水を見ていると、胸のずーっと奥の方がほんわり温かくなった。
その温もりの正体に俺が気づくのは、もう少し先になる。



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あきゅろす。
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