若者たち
6
無理やり連れてこられたファミレスのハンバーグ定食を無言で食べる。藤原におごってもらえる予定のこのハンバーグは普通に美味しかった。
「おいしー?」
「・・・・・・」
カルボナーラをフォークにくるくる巻きながらこちらを伺ってくる藤原。質問には答えず店内をちらりと見渡す。学校からも近いこのファミレスには、俺たちと同じ制服を着たグループが楽しそうに話しこんでいるのがちらほら見えた。藤原はフンフン鼻歌を歌いご機嫌のようだが、そろそろ何も話さないのも微妙かなー…と思ってきた。俺の間が持たない。
「・・・・・・・・なんでここに連れてきたの」
ようやく口を開いた俺にきょとんとする藤原。すぐにニコーッと笑う。やめろ、眩しいから。
「泉水と一緒にご飯が食べたかったからだよ」
「・・・いやいや。そーゆーこと聞きたいんじゃねーから」
どうして俺と一緒にご飯が食べたいのかが知りたいんですよ。だって彼女の元彼だよ。俺なら一緒に飯食べるなんて絶対無理・・・・ほんと意味分かんないこいつ。それとものろけ話でも聞かせて俺をどん底まで沈める気か?ぐるぐる考えてしまう……あーもーめんどくさいからいいや。
はぁ〜と盛大にため息をつく。
「俺じゃなくて、もっと他に飯を食いに誘う相手がいるだろっ」
「んー?なにそれ誰ー??」
「誰って・・・彼女いるだろ。こういう時間あるときとか、一緒にいるべきもんなんじゃないの」
なんとなく悔しくてマナミちゃんの名前は出せなかった。藤原はこちらを向いてカルボナーラを一本ちゅるんと吸った。パスタを吸うんじゃない!はしたない!
眉をしかめて思わず注意しようかと口を開こうとした。
「俺いないよ?彼女」
・・・・・・・・・・は?
・・・・いやいやいるだろう。目が大きくて髪の毛サラサラでちっちゃくて優しくて可愛い彼女が。
またフンフン歌い出して俺の定食にフォークを持ってきた。ハンバーグの隣にある人参のソテーを刺して自分の口に入れ美味しそうに食べている。あ、ラッキー。人参の甘さって苦手なんだよな。出されたものは残したくない主義だから、いつも最後の方で嫌々食べることになるんだ。
…って違うだろ俺!すぐ思考が別方向にいくのは俺の悪いクセだ。
「っ・・・・・・・・マナミちゃんがいるだろ」
とうとう俺は言いたくなかった名前を口にした。
もう一つ残った人参を見つめていた目がこちらを向いた。欲しかったら食べてもいいんだぞ。
「んあー…?・・・・あー、マナミちゃん。あのマナミちゃんね。別れたよ」
「・・・・・・・・へあぁ!!??」
「うわっ!びっくりしたーいきなり変な声出さないでよ」
いつの間にか二つ目の人参は無くなっている。しかしそんなことにも気付かないほど混乱していた。
「別れたってお前・・・・っまだ付き合い出して1ヶ月も経ってねーじゃんかっ」
「確か2週間くらいは続いたよー俺にしては超続いた方なんだけど」
へへっと自慢げに笑う。女が見たらかわいー♪とか騒ぎ出しそうだ。マナミちゃんだってあんなにとろけた顔をこいつに向けていた・・・・そうだ、マナミちゃんは大丈夫なんだろうか。こいつに振られて傷ついて泣いてしまったりしなかったろうか。
「マナミちゃん今別の彼氏できたみたいだよ」
・・・・・・・・ええええぇぇぇぇ!!??
「何回かヤったんだけど相性悪くてさーあっさりバイバイしてくれたー」
もう誰の話をしているのか分からない。ヤったって何を?あ…あれしかないよなぁ。俺は触れる程度のキスを数回しただけだったんだけど・・・
俯き、俺はまた口を閉ざした。なんなんだこいつら。俺が純粋にマナミちゃんを想ってきた気持ちが踏みにじられた気がした。俺って・・・やっぱ遊ばれてたのかなぁー…もうそうとしか思えないわ。
「みんなそれくらいやってるよ?」
俺にオレンジジュースが入ったグラスを渡してあっさりと言いやがった。呆けてる間にドリンクバーに行ってたらしい。
グラスを受け取り、やっと思考が正常に戻ってきて俺は一言。
「乱れてんな、昨今の若者は」
ブハッと飲んでいたウーロン茶を噴き出して藤原は笑った。
眉間に少ししわを寄せて「どこのおっさんだよー」と口を開けてケラケラ可笑しそうに笑う姿を見て、こいつこんな笑い方もできるんだと少し驚いた。
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