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若者たち
27
只今、俺は泉水くんのお部屋にたった一人で座っております・・・・もちろん行儀よく床に正座です。ハイ。



あの後家に上がらせてもらい、飲み物持ってくるから先に部屋に入って待ってろと泉水に言われた。ひ、ひとりで行くんですか・・・?とおろおろする俺を気にもせずに、部屋の場所を教えると泉水はキッチンと思われる場所へとさっさか入っていってしまった。
しばらくその場に突っ立ったままだったが、このままここにいるのもなんだし…と思い、とりあえず言われた通り教えられた部屋へと向かった・・・・・・んだが。階段を上りすぐ左の部屋の前で、また俺は動きを止めてしまう。

ありえない・・・なんだこの緊張感は。ひとつ屋根の下に泉水と二人っきりということ事態奇跡だというのに、俺は今から泉水の部屋へと足を踏み込もうとしている。他人の部屋に入るだけなのに、こんなに緊張するのは初めてだ・・・ドアノブに手をかけたまま、なかなかその手を回す勇気が出せずにいた。この中に泉水の生活のすべてがあるわけだよ・・・?俺正常でいられるわけ?無理じゃね?いやでも入らないわけには・・・つーか入らずに帰るなんて惜しすぎる。
勇気だっ!勇気を出すんだ恵介っ!!お前どんだけヘタれてんだよ!!と自分を叱咤しつつやっとの思い出ドアノブを回し、泉水の部屋へ・・・・・・・・・・・・・・・・瞬間、立ちくらみですよ。
入ると同時に鼻腔ををいっぱいにさせるのは、俺のよく知ってる、俺の大好きな、泉水の匂い。たっ・・・たまんねぇっす!パネェっす泉水さん・・・っ!!
くらくらする頭を抱えながらもなんとか部屋を見回す・・・そりゃもう見えるところは隅々と。テレビの近くにはゲームのケースが散乱しており、その傍にある棚にはびっしりと漫画が並んでいた。床には入りきれなくなった他の雑誌や漫画が積み重なっている。ローテーブルにはCDらしいものが数枚置いてあるが、勉強机の上にはなんにもない・・・超キレイだ。男の子の部屋だなぁ…泉水らしいなぁ…と知らず知らずに顔が綻んでしまう。
そして、嫌でも目に入ってくるのは部屋のスペースを大きく占めるそれですよ。泉水が毎日、きっとどうしようもないくらい可愛い顔して眠りについてるであろうベッド様ですよ。紺色の敷布団にタオルケットだけが無造作に掛けられている・・・・・あぁ、飛び込みたい。あの枕に思いっきり顔をうずめてスーハーしたい・・・・・・・・・・・・あ、ヤベェ。

俺は自分自身の変化を素早く察知し、適当に空いたスペースに正座をした。いかん・・・いかんよっ!!ただベッドを見ただけでこの反応はないっしょっ!?どんだけ泉水のこと好きなんっ!?いや死ぬほど好きだけどもっ!!!頼む・・・治まってくれ俺!!泉水が来る前に・・・バレたら追い出されるだけじゃ済まねーよ?きっと一生口きいてくんないよっ!?・・・そうだ、何か別の…なんか頭が冷めるようなことを考えなければ・・・・・泉水・・・じゃなくて教頭だ。あの禿でデブで脂ぎった顔の教頭が裸になって俺に迫ってくるとこ想像してみろ・・・・・・・・・うぇぇ。



「お前なんで正座なんてしてんの?」

ガチャリと音がしていきなり声をかけられた。ビッ…ビビッたぁっ!!泉水、人の部屋に入るときにはノックをしろと・・・・あぁここは泉水の部屋でした。それとなくアレを確認すると、見事に元通りです…流石教頭。今度すれ違ったらちゃんと挨拶しよう。

「お・・・遅かったねぇ」

「食いもん探してた。あと飲みもんウーロンしかなかったから文句言うなよ」

泉水が用意してくれたものに文句なんかないしっ!氷が入ったグラスやペットボトル、お菓子が乗ったお盆をローテーブルへ置いた泉水は床に敷いてあった小さいクッションに腰を下ろす。ポテチの袋を開き、ウーロンを二つのグラスにとぽとぽと注ぐ。

「どーぞ」

「あ、どーも…」

「いーえー・・・・・さてと」

俺にグラスを渡すと、泉水は四つん這いで棚の傍に積んであった漫画を手に取った。そして元の位置へ戻りポテチを一枚口へ放り投げ、その漫画を開く・・・・・・・・・って、えぇ!?

「ちょっ・・・・・・泉水さん?」

「んー?なんすかぁ?」

「何それ・・・今からそれ読む気?」

「んー読む気。お前も適当に好きなの読んでいいから」

違う違うっ!!俺はそんなことが言いたいんじゃないっ!!こう・・・・もっとあるだろ!?せっかくお友達が遊びに来てるのに放置しようとしてるよこの人っ!!

「い・・・泉水っ!おしゃべりしよう!!」

「は・・・?俺今日中にこれ全部読み終わらなきゃなんねーんだよ・・・・明日次郎に返さなきゃ」

泉水の目線の先には重なった漫画本・・・8冊。ちょっと・・・これ読んでる間俺のことマジでほっとく気みたいですよ泉水くんは。

「ねぇいず「うっさい」

一刀両断。


もくもくと漫画を読む泉水・・・・俺になんて目もくれない。仕方ないから近くにあった雑誌や漫画をペラペラめくってみるが全然頭に入ってこないし。
つまらん・・・せっかくこんな狭い部屋に泉水と二人きりでいるのに全然相手にしてもらえない。くそぅ…こーなったらもうずっと泉水見てるよ。泉水観察開始しちゃうもんね、俺。

見る。ひたすら、じーっと泉水を見る。
あー…伏し目になって文字を追って動いている黒目がなんとも愛らしいね。肌もキレイだし…白すぎず、黒くもなく健康的で俺好み。ちょっと前におでこに一個ニキビが出来てたけどキレイに治ってるみたいだ。つーかいつの間に着替えていたのかハーフパンツになってんだよね・・・生足たまらん。あぐらかいてるから内腿が気になってしょーがないんですけど・・・・

ダメだっ!!見すぎるとまた余計なこと考えてしまう・・・これも泉水が相手してくれないからだ。たまに動いたかと思えばウーロン注ぎ足したりポテチ食べたり新しい漫画に手をつけたり・・・俺は泉水の声が聞きたいのに!!

「泉水ーかまってー」

「んー」

ダメだ・・・全然聞いてない。俺の存在忘れるくらい集中しまくってる・・・俺あの漫画本になりたい。あ、でも狭山クンのなんだよね・・・じゃあやっぱりイヤだ。
ふぅ・・・と小さくため息を吐きつつ玄関先での出来事を思い出す。あの姉ちゃん・・・色々と凄いな。一瞬で俺が泉水を好きなの分かったみたいだし、すっげぇ嬉しそう・・・つか楽しそうだったし。まぁ、家族が応援してくれんのはかなり助かるけど・・・・・・あのお姉様のお言葉は本当だろうか。

『いーい?泉水は押しに弱いのよ。あと、すっごいほだされ易いし情にも弱い。引いちゃダメよ。引いてもあいつ絶対気付かないから。とりあえず押しまくったらすぐ気にしだすわよ。そこを一気にー―――…ってかもう押し倒しちゃっても私は全然かまわないしっ♪』

押しまくったら、かぁー・・・・・俺これでもかなり分かりやすく泉水に接してるつもりなんだけど。まぁ、恋愛感情で好意を持たれてるなんてこれっぽっちも思ってないだろうけどさ。
たまに、どうしようもなくなって本音を…自分の気持ちを泉水に言ってしまいそうになる。いつも寸でのところで口をつむぐが、いつかぽろりと言ってしまいそうだなとは思う。まだだ・・・まだ言うべきときではない。はずなんだけど、あのお姉さんの言葉を聞いたら今言ってもいいんじゃないかと・・・少し悩む。


あー――――・・・もう俺わかんね。
泉水はまだまだページをめくる手を止める気配を見せない。この部屋で二人っきりになってもう1時間を超えたというのに。
もー・・・

「泉水ー話しよーよー」

「んー」

「漫画読むのやーめーてーちょー」

「んー」

「外いい天気だねー」

「んー」

「明日の体育なにすんのかね?」

「んー」

「お姉さんとまた会いたいなー」

「んー」

「好きな食べ物はなんですかー?」

「んー」

「俺はハヤシライスです」

「んー」

「いずみー」

「んー」

「…スキだよ」

「んー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・泉水のバカッ!!」

「んー・・・・・・・・・っつかお前今なんつった!?バカって言ったよなっ!?てめーにだけは言われたくねーよ!!」

ええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?そこっ!?突っ込むとこそこなのっ!?俺すっげぇこと言ったんだけどっ!!??さりげないようで死ぬほどの勇気出したんだけどっ!!

「ちょっ・・・やっと反応したと思ったら何それっ!?てかその前に俺が言ったこと聞いてた!?確実に聞いてないよねっ!?」

「はぁ〜?お前なに言ってんの?ばぁ〜〜か!!」

そう言って泉水は足でげしっと俺の腹を蹴った。けど、持っていた漫画を閉じて床に積み直し、俺を見て笑ってくれた。

「うるさくて集中できなくなった。しょーがねーから相手してやるよ」


泉水はバカだ。超バカワイイ!!




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