若者たち
17
あー…やべー・・・・もうホント俺ダメかもしんない。
隣で服を物色しながら難しい顔をする泉水…値札を確認すると、キレイにたたみ直して元の位置に戻した。そっかそっかー買えないかぁ〜…。結構気に入っていたのか、しょんぼりする泉水にたまらなくなる・・・・・・・・かわいい。
泉水をかわいいって思ってしまう自分におかしいと気づいたのが、始業式から一週間後。でもかわいーもんはかわいーし仕方ない！と開き直ったのがその次の日。
日が経つにつれて泉水と話すたびに感じる温かい、でもどこかモヤモヤした気持ち。もっと一緒にいたい話したい触りたい笑ってほしい……俺だけに笑いかけてほしい。なんとなく自分の中で確信を持ち始めたきたときに、俺は泉水にキスをした。
やっちまったー…って思ったけど、その日の夜は顔のにやけが止まらずベッドの上で顔を枕に押し付けてムフフ…って笑いが止まらなかった・・・・完全にイッちまってる。
でも今になって思うんだよねー・・・俺ってば、きっと泉水に一目惚れしていたんだ。自分で気付かなかっただけで、あの冬の空き教室で好きな人に一生懸命告白する泉水に・・・・・あの泣き笑いに全部持っていかれたんだ。俺に…俺だけにあの優しい、純粋な目を向けてほしい。好きって気持ちを全力で晒して、ぶつけてきてほしい。
・・・・・・・・って思ってたんだけどもっ！同じクラスになって泉水が俺に向けて笑ってくれたのは、始業式の日のファミレスから駅まで帰る道で見れたあの小さな微笑み一度きり。あ…でもたまに鼻で笑われたりするわ・・・悲しすぎる。まー仕方ないよねー…出会いがあれだしねー…もっと他にやり方あったんじゃねーの？って思うけど、俺にはあんな事しかできなかった。おかげで、こんなに付きまとってるのに友達とも思われてない始末ですわ。せめて狭山クンレベル・・・・は無理だな…ヒロレベルぐらいには笑いかけてほしいんですけど。てかすげー今更だけど狭山クンと泉水の関係ってどーなの？友達とか親友とかすっ飛ばしてる気がする。ライバルではない気がするけど…あの仲良しっぷりは羨ましすぎて泣ける・・・・・・まぁ俺がなりたいのは友達ではないんだけどねぇ。
だから今日はさっ！頑張ってちょっとは仲良くなっちゃおうよっ！！ってゆーアレですよ。まぁ初っ端から最悪でしたけどね。楽しくないとか言われちゃったしー・・・・俺が真顔になるのってかなりレアなんだよ？やっぱ泉水ってすげー。
こっそりため息をついて再び泉水に目を向ける。細めのベルトを手に取り、なにやらウンウン悩んでるようだ。欲しいのかなー？・・・買ってあげたいわぁ。後ろからじっと観察してみる・・・頭ちっせーなー…脳みそ入ってんのかな？あ、髪の毛はねてる…寝ぐせ？しかもシャツが微妙にしわしわなんですけど。てきとーすぎますよねー…俺けっこー気合い入れてきてるつもりなんだけどな。今日だってふっつーに遅刻してくるし・・・・・・・そ、それだけ気を許してもらってるってことにしとこーねっ！！
泉水はまだ悩んでる。小さく首をかしげる姿がなんとも・・・・・普通少年のくせになんでそんなかわいいの！！って言いたいけど言ったら殴られそうだから言わない。寝ぐせがヒョコヒョコ動いてる・・・泉水みたいだ。触りたくてうずうずする。
「・・・・・・おい。何やってんだ」
「ん？・・・・あー」
やべ、無意識に触ってしまっていた・・・・自重しろよ俺の手…いや、俺か。
「だって寝ぐせ気になるー。ちゃんと治してきてよ」
「うっせー・・・・お前なんも買わないの？」
口とがらせないでよ。またちゅーしちゃうよ？
「んー…あんま欲しいのないかも。泉水はそれ買うの？」
「買わない。金ねーし」
「バイトとかしないのー？」
正直しないでほしいけど。だってもしかしたら放課後一緒に帰れなくなるかもじゃん。
「一年の頃はしてたけど、やめたよ・・・・・・・・春休みに」
じろりと睨まれる。もう慣れたから平気♪それにしても、春休み・・・・・・・？あっ！！あちゃー地雷踏んじゃったよ。あれだね！彼女のためにバイトしてたんだねっ！！ちょー健気っ！！ちくしょーいいなーマナミのくせに。俺も泉水に尽くされたい…っつーか尽くしたい！！
・・・・・って、あれっ！？
気づいたら泉水は店から出ていっていた…一人でニヤニヤする俺を店員が見てる・・・はずっ。もー…ほんと冷たいんだからっ。ほんの少ししょげていると、レジの横に並んでるちょっとしたアクセサリーコーナーが目に入った。
あ・・・あれ良い。
シンプルな革のストラップ。ブラウンと白の二種類・・・・即決です。ほんの少しの期待を込めて、俺はその二つを手に取りレジへと足を進めた。
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