◇夜空に謳う◇
3
お父さんが亡くなってからあの人は『母親』じゃなくなった。
本当は俺の事気味悪がってるのに、お父さんが生きていた頃、あの人は『母親』で居てくれた…。
気味悪いと思われても仕方ない容姿の自分が悪いんだ。
お父さんもあの人も純粋な日本人。
なのに生まれた俺は日本人には決して無い髪の色をしてたんだから、気味悪がっても可笑しな話じゃない。
けれどお父さんは俺を可愛がってくれた。
髪の色でイジメられて泣いて帰っても、お父さんの言葉一つで落ち込んだ気持ちも浮上した。
お父さんの言葉は俺にとって『魔法の言葉』だった。
もう、居ないけど…。
──ガタン。
「っ!」
突然の物音に肩が跳ね上がる。
「……なに、帰ってたの」
「…」
振り返ると、予想通りあの人が据わった目つきで俺を眺めていた。
─お酒、臭い…。
夜通し呑んでいたんだろう。
尋常な酒の臭いじゃない。
ふらふらと奥の部屋に向かったかと思うと、そのまま倒れ込む様にして寝てしまった。
最初の頃はこの人のこんな所が悲しくて仕方なかったのにな…。
──もうこの人に対して、何の感情もわかない。
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