◆月の籠◆
参
「お疲れ様です。雛様」
「…」
御簾から出て来た人物に青年は跪いたまま頭を下げた。
雛様と呼ばれた人物は現綾神家当主、綾神雛。
見目麗しいその姿に、その場に居た数人の使用人の女達は頭を下げる事も忘れ見惚れる。
それ程に雛は美しく妖艶だった。
紅く美しい着物を纏い、綺麗に結われた長い青銀の髪。
それだけ見ると女性の様だが、彼はれっきとした男だった。
「…このままお休みになられますか…?」
「……いや、…」
雛の意を汲み取った青年は使用人達に出ていくよう指示をだす。
「…では、用意をして参ります」
静かに立ち上がり 出て行く青年の背を見つめ、雛はひっそりと息を吐いた。
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