◆月の籠◆ 壱 その日、満剣と一緒に学内の談話室を通りかかっただけだった。 「…行きましょう」 「……」 小さく囁かれた満剣の言葉に雛は眉を顰める。 テレビ画面の向こうには先日雛を尋ねて来た政治家、笹山が悲愴に顔を歪め謝罪を繰り返していた。フラッシュの嵐の中、まるで逃げるように笹山は退散して行く。 ──あの男はもう駄目だろう。 政治家としても人間としても社会的にも認められず、ただ堕ちてゆくだけ。 そう思い、雛は踵を返した。 雛には解っていた。 あの男…笹山が駄目だと言う事を。 それでも加護を与えてしまった。 先祖代々から続く習わしとは云え、雛にはそれを拒む事が赦されない。 頼る者には加護を。 その後昇る者は何処までも昇り、そうで無い者は堕ちる。 笹山は後者だったと云うだけの事。 ──違う。そうさせたのは自分だ。 「…雛…?」 ピタリと止まった歩みに満剣は雛の表情を覗き込み言葉に詰まった。 「…ここ…ろ…」 ゆっくりと合わさった視線。 満剣の双眸に映ったのは…満剣にとって見たくない…雛の涙だった。 . [次へ#] [戻る] |