◆月の籠◆
弐
「忘れてはいけません。これは『契約』です」
御簾の奥から響く、男なのか女なのか判別の出来ない透き通ったその声は、その場に居る全ての人間を魅了する。
「ち、誓います!」
脂ぎった中年の男はその声に我に返った様に慌てて答えた。
「ならば貴方に『龍神の加護』を…」
「ぁ、有難う御座います!有難う御座います!」
中年の男は床に額をぶつける勢いで何度も礼を述べる。
「…決して、忘れてはなりません。
貴方の心が欲に染まり、驕る様な事あらば、貴方は全てを失う…。
今より貴方は『契約』と云う名の薄い氷の上に立つのです」
ゴク…と男は息を飲んだ。
「笹山様…。『契約の儀式』は以上で終了です」
御簾の外に構えている青年に声を掛けられ、男は弾かれたように頭を上げた。
「姫様はお疲れです。申し訳ありませんが本日はお引き取り下さい」
「、わかりました。でわまた後日…」
男はへこへこと何度も頭を下げながら門を出た。
その門に表札はない。
だが政界に関わる者達に知らない者は居ない。
『綾神家』
それは『龍神』に愛される一族…。
.
[*前へ][次へ#]
[戻る]
無料HPエムペ!