◆月の籠◆
八
「あ、雛今笑った!」
「ぇ…?」
滅多に笑わない雛が笑うと、とても嬉しそうに言う。
その後決まって透夜が続けて言う言葉が……
「雛、綺麗」
雛を奈落に突き落とす──。
他意のない思ったままの事を告げる透夜に、悪気がある訳ではない。
けれど…。
「俺が…綺麗なわけないだろ…」
返す言葉は震えていないだろうか…。
いつもの様に、自分は喋れているだろうか…。
「雛」
突然、四人とは違う声で呼びかけられ、雛は振り返った。
「げっ、もう来やがったか」
透夜が忌々し気に吐き捨てた先には、この明訪学園の生徒会長である満剣心が立って居た。
「…ここ、ろ…」
「顔色が良くないな…。今日は早退するか?」
雛の頬を撫でる満剣に、透夜達は焦燥感を煽られる。
生徒会長の満剣心と副会長を務める雛が、誰もが羨む程の恋仲だと彼等が知ったのは、既に雛に一目惚れをした後だった。
「大丈夫…だから…」
「……わかった。だか無理はするな」
「ん…」
こくりと頷いた雛は、誰から見ても『満剣心の恋人』だった。
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