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花という名の無法地帯
Innocent Heart(タケ準)




ちりちりと咽を灼くのは、

このレモン味の炭酸なのか、
何も出来ない焦燥なのか、

俺にはわからないけれど。




Innocent Heart
-side j-




「…タケならできるだろ」

白を基調とした休憩室の、痛いくらいに病的な色をした光の下で俺はそう呟いた。
まるで病院の待合室だな、と慎吾さんが皮肉っぽくに笑ったのが随分と昔のことのように思える。
俺の言葉にタケは何も答えず、砂糖一個すら入っていない真っ黒な珈琲に口を付けていた。


よくそんなの飲めるよな、
なんて今はどうでもよくて。


我ながら無責任なことを言ってるとは思う。
タケの腕に全世界の人間の、全ての生き物の命がかかってるっていうのに。

わかってる、けど。

俺はタケが少しでも作戦に集中できるように、ただ援護することしかできない。

そう、俺が自分の不甲斐なさに飲み物のストローを噛んだときだったと思う。
珈琲のカップをデスクに置いたタケがゆっくりと立ち上がって、突然、俺の右の手首を掴んだ。

カシャ、と俺の薄まったレモンスカッシュと小粒の氷がサナトリウムの床に散る。

「ちょ、お前…な」

何すんだよ、
という言葉は虚空に溶けた。


一瞬だった。


タケが俺の左手首も掴んで、
俺の身体を引き寄せて。


唇を、重ねた。


ただ触れて、
ほんの少しだけ交わる。

苦い、珈琲の味。

まるで時間が止まってしまったみたいに動けない俺が、タケの瞳に映ってた。

「…タ、ケ?」
「悪い」

俺からゆっくりと離れたタケは、顔色ひとつ変えずにカップを手に取ってダストボックスに投げ入れた。
ガコン、とカップが下に落ちる音が静かな室内に奇妙なくらい響いた。

「酷いことした、けど」

振り返らずにタケは言った。

「これが成功したら…多分、もっと酷いことするから」

白いドアの向こうに消えるタケの背中。
俺は動くことすらできずに、ただその閉まっていく無機質な扉を見つめる。
その隣に置かれていた観葉植物の緑が妙に鮮やかだった。






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構成の都合で前後編です。


ヤシマ作戦前とその後のお話。
和さんと利央が来るちょこっと前です。

それにしてもタケ準て、
マイナー街道まっしぐらだな。

てかタケったら、もしかして、
さらっと準さんのファーストキス奪っちゃったんじゃないの?とか若干テンパってますが、まあそれはそれでいいような気がしなくもない。←


この後、タケはエヴァの中で『やっちまった』とか若干赤面してればいいと思います。





2008*1022 玖瑠璃

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