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花という名の無法地帯
いない、君しかA





ああ、怒ってるなぁ。


俺は嘆息に近い溜息を噛み殺して背もたれに寄り掛かった。
ぎし、と椅子の軋む音が無言のこの空間によく響く。


きっと俺が聖剣に会いに行ったことを誰かに聞いたんだろう。

おそらく、山ちゃんあたりに。

準太は少し嫉妬深いところがあるから、聖剣に会うことを伝えずに行ってしまったけど。


やっぱりまずかったよな、
と俺が頭を掻いていると、プリンを弄る手を止めた準太が小さく呟いた。

「で、どうだったんですか?」
「え?」
「…エクス…カリバーは」
「………いやぁ…」

やっぱりそうか、と思うのと同時に今日会った聖剣のことが思い出された。

そして思う。


…どうだったと聞かれても、な。


正直、あんなうざったいものを見たのは生まれて初めてだった。

何百年も生きてるんだからって言えばそれまでだけど、明らかに人外だし。
慎吾が持ってきた、あのエクスカリバーの武勇伝を綴った本は実は本人が書いたものだったし。

ていうか、何と言うか、

合わない、
人としてというか生き物として。


誰が5時間の朗読会になんか参加してやるものか。


俺が説明しようと言葉を探しあぐねていると、今まで不機嫌そうにそっぽを向いていた準太の目がふっと伏せられる。

その瞳の光が、
陰った気がした。

「…も、……す」
「…え?」
「もういいです!!」

そう叫んだのと同時に、準太は勢いよく立ち上がった。
その拍子にガタンと揺れた椅子が均衡を崩して床に転がる。

「かっ、和さんなんて、聖剣の職人にでもなんでもなっちゃえばいいんですよ!おっ俺だって…もっといい職人見つけてやるんですから!」

引き攣るように言い放った準太は言うが早いか、身を翻すとドアに手を掛けた。

けれど、
そのドアは開かない。

俺の手がその扉を押さえ付ける方が早かったからだ。

今日ほど、このドアが内開きで助かったと思ったことはない。

「はな…っ!」

放せ、と言おうとしたのだろう、振り返った準太が漸く俺を見た。

その綺麗な闇色の瞳には、
同じくらいに綺麗な透明の雫が溜まっていた。

「…それは、困る」

他の職人なんて、
見つけられちゃ困る。

「ごめんな、準太」

俺は準太の頭に唇を寄せた。
艶やかな深い鳶色にも映る黒髪、百合のように清々しいけれど、優しく甘い準太の匂い。
準太は一瞬びくりと身体を強張らせると、眉を顰めて、じっと俯いた。

「…………した」
「…ん?」
「…お、れ、棄てられる…んだと思い、ました…」

準太の薄い肩が震える。
その白い頬を滑り落ちた滴が床の上にぱたっと弾けた。

「…そんなわけ、ないだろ」
「…っ、で、も」

俯いたままの顔、
ぽろぽろと落ち続ける滴。


悲しい、俺は準太の、
向日葵のように咲く笑顔が好きなのに。

その笑顔を奪っているのが、
泣かせてるのが俺だなんて。


「…準…太」
「…俺の…俺の職、人は、和さんしか…いない、のに…っ」
「…!」

ぎゅうっと俺の腕を掴む準太に心が痛くて、哀しくて堪らない。


俺のつまらないくらいに些細な行動ひとつで、こいつはこんなに傷付いて、気持ちを削って。


こんなことで、と。

もしかしたら、他の誰かは、
滑稽で下らないと思うかもしれないけど。

俺はどうしようもなく愛おしいと思うから。


準太という存在が、

愛しくて、堪らない。


「…俺の武器だって準太しかいねぇよ」


まるで寒さに震える、
華奢な準太の身体を抱いた。

細くて頼りなくて甘い香り。

「ごめんな、準太」


こんなにも不安にさせて、
幾ら言っても足りるもんじゃないかもしれないけど。


準太が怖ず怖ずと顔を上げた。
涙に揺れた大きな瞳は琥珀色とも鳶色とも言い難く、きらきらと光って瞬いている。


素直に、
綺麗だと思った。


「準…」
「か、和さんが他の武器に目移りしないように、もっと自分を磨いてやりますからっ」

俺の言葉を遮った準太の眼差しはひどく真っ直ぐで、強い光を帯びていた。
泣いたことがか、それともまるで意地のように零れた言葉が恥ずかしかったのか、すぐに俺から視線を逸した準太はもう十分に魅力的なんだから困ったもんだと思う。


こいつがこれ以上綺麗になって、他の奴らに目ェ付けられたら堪ったもんじゃねぇなぁ。


それを口には出さずに、俺はそっと準太の顎に指をかけた。
頬にうっすらと残る涙の後を辿るように唇を這わす。
擽ったそうに喉を鳴らす準太が可愛すぎてどうしようもない。

俺は一度顔を離すと、
準太の薄く色付いた唇を食むように、そっと唇を重ねた。




いない、君しか。


俺の武器、

俺の職人。



君しか、いないんだ。





Fin
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気付いてしまった。

自分、受けの子泣かすの本当に大好きだ!(愕然

しかも攻めにほっぺた舐めさせるのも大好きだマンネリ万歳!←


だってさー可愛いじゃないですか泣いている準さん!(最低だよ

てか、うちの和準は、和さんも準さんもお互いのこと大好き過ぎて困っちゃうな!(お前がな


とにかく、
楽しかったのでよし!←



感想お待ちしてます!





2008*1016 玖瑠璃

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あきゅろす。
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