花という名の無法地帯
いない、君しか(和準)
懲りずに魂喰パロで和準です。
読んでも気分が残念なことにならない方はどうぞ!(痛
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何が間違いだったと聞かれれば、そりゃ自分が下した選択には違いないのだけれど。
いない、君しか
「なぁ和己、興味ねぇ?」
登校してすぐの慎吾が俺にそう話しかけてきたのは、ホームルームが始まる少し前のことだった。
ざわざわと、まるでさざめくような話し声がBGMの午前8時25分。
何がだよ、とこっちが聞く前に、慎吾は俺が開いていた教科書の上に堂々と白表紙の本を置いた。
しかも妙に分厚いやつだ。
今日の朝は魂学の小テストだっていうのに、余裕な奴め。
そんなことなど全く気にかけている様子のない慎吾は、その表紙に書いてある金色の文字をゆっくりと指でなぞった。
「エクス…カリバー?」
「聞いたことくらいあんだろ?伝説の聖剣の話」
知らないわけがない。
実際に存在するらしいその聖剣の伝説は、昔から一種のお伽話のように人々の間で語られてきたものだ。
そりゃ職人と名乗る者としては、一生に一度は見てみたい代物だけど。
「それがどうしたんだ?」
「なぁ、取りに行かね?」
「は?」
いきなり飛び出た突拍子もない話に、俺は本をめくろうとしていた手を止めて、まじまじと慎吾の顔を見つめてしまった。
無作法にも机に腰を掛けた慎吾が俺の視線を受けて楽しげに口の端を上げる。
「この本にさ、聖剣が封印されてる洞窟の場所とか書いてあったんだよ。しかも案外近場で片道3時間」
「いや遠いだろ、微妙に」
そもそもアテになるのかこの本、書いたの誰だよ。
…というか、
行く行かないの前に。
「だいたい、俺には準太が…」
「俺にだって迅がいるけどさ、なんていうの…社会見学?」
俺の言葉をさらりと流した慎吾はまるで舞台役者のように大仰に肩をすくめて見せた。
「それに、行くだけならタダじゃん?」
「それは…まあ」
「…それにさぁ、聖剣だぞ聖剣。職人なら…1度は見ておきたいだろ?」
そう言われてしまえば、
言い返すことは難しい。
言葉を詰まらせた俺を見て、慎吾はしてやったとばかりに唇を歪めて笑った。
「よし、じゃあ今日の放課後な」
そう言った慎吾が上機嫌で俺の隣に腰を下ろした瞬間、始業のチャイムが鳴った。
数分遅れて、教室に入ってきた担任教師が面倒臭さそうにテストの用紙を配り始める。
それをぼんやりと眺めながら、俺は仕方ないから付き合ってやるかと腹を括ったのだった。
この選択が間違いだったと気付くのは、これから約12時間も後のことだ。
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俺の目の前には食卓に頬杖をついて、プリンをつついている準太の姿。
その艶やかな色をした物体は、さっきからまるで意味もなく掻き回されているせいで、残念なくらいにぐちゃぐちゃになってしまっている。
引き結ばれた唇、
顰められた眉と不機嫌そうな瞳。
困ったことに、準太は俺が帰ってきてからずっとこの調子だった。
「…」
「…」
「…なぁ、準太」
「…………なんすか」
「その……怒ってんのか?」
「どうしてっすか、別に怒るようなこと何もないっすよ?」
準太はもう既に原形を留めていない淡い黄色の物体をスプーンで掬いあげると、なおざりにそれを口に運ぶ。
カラメルの混じった甘い液体が準太の赤い舌先に乗って、その口の内に消えていった。
「…それとも、何か心当たりでもあったりするんすか?」
それを咀嚼もせずに飲み込んだ準太は、俺の顔も見ないで吐き出すように口早に言った。
そういや準太の奴、
俺が家に帰ってきてから、こっちをまともに見て来ない気がする。
「…いや、うーん…」
「…そっすか」
俺が中途半端に言葉を濁すと、準太は再びプリンだったものを弄り始めた。
準太のたれ気味の真っ黒な瞳が明らかに怒りの色を宿しているように見えるのは、きっと俺の気のせいではないだろう。
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