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花という名の無法地帯
武器の心、職人知らず?A





「…準太」
「…、か、かず…さ」

耳に落ちた和さんの声が熱い。
なのに自然に入り込んできて、胃の辺りをぎゅうって抱いた。

「こんな職人に捕まって、お前もとんだ貧乏くじ引いちまったな」

そう、俺を見上げて悪戯っ子のように笑った和さんの顔に一粒、ぱたっと雨が落ちた。
それは最初の一滴を追うように次から次へと落ちていく。
和さんは少し目を見張って、そして緩やかにその瞳を細めた。

「お前なぁ…」
「だって、あのとき…っ」

だってあの時、和さんは。

俺が口を開く前に、和さんは申し訳なさそうに目を伏せた。
大きな掌がそっと俺の頭に添えられて、まるで労るようにそっと撫でてくれる。

「…ごめんな、準太」
「…?」
「もう、我慢するのはやめだ」

和さんはそれ以上は何も言わなかった。

けど、でも。

俺を見つめるその瞳が、
いっそ死んでしまいたくなるくらい優しいものだったから。

「…かっ、かずっ、さ…んの方、がっ、貧乏くじです、よっ」

ぼろぼろと勝手に零れてくる涙も拭わずに、俺は和さんにしがみついた。
恥ずかしくて、こんな涙でぐちゃぐちゃの顔を和さんに見られたくなくて、和さんの首筋に顔をうずめる。
少しだけ汗の混じった和さんの匂い、それに馬鹿みたいに安心した俺は、震える息を喉の奥に押し込んだ。

「俺、だって、和、さんがっ、他の武器、使ってるとこなんかっ、見たくない…しっ」
「…うん」
「他、にもっ、たくさん…っ」
「…うん」

嗚咽に混じって酷く聞こえづらいだろう俺の声を拾って、和さんは穏やかに頷いてくれた。


俺を落ち着かせるように、ぽんぽんと背中を叩いてくれる和さんの大きな掌が好きで。
穏やかで柔らかくて深い和さんの声音が好きで。
きっと俺を見つめてくれてるあったかくて優しい和さんの瞳が好きで。

和さんを形作る全部のものが好きすぎて、もうどうしようもない。


「…俺もだよ、準太。だから、そろそろ顔を上げろ、な?」
「嫌ッス、だって俺今すっげーブサイクですよ」
「んなことねぇって」
「あるんですっ」

さっきよりも強くしがみついた俺の頭の上で、和さんが困ったように息を吐いた。
そして、ん、と思い付いたように呟く。

「お前…少し重くなったな、太ったか?」
「…えっ」

俺は咄嗟に和さんを見た。
そして、気付いたときにはがっちりとホールドされている顎。
俺の視線の先で笑う、和さんのイイ笑顔といったら。


ハメられた!


「嘘だよ、むしろもうちょっと太ってもいいくらいだぞ?」
「…お、俺だって一応オンナっすから、気にします…」

俺は恥ずかしくて和さんから目を背けた。
けど、俺の顎を掴む力は思いの外強くて、ちょっとやそっとじゃ逃げられそうもない。


確かに俺はよく食べるけど。
お前本当に気にしてるのかってくらいよく食べるけど。
むしろ胸ならば太って欲しいくらいだけど!


「か、和さんは狡いです…よ」
「そっか?」
「そういう…冗談は、嫌われますよっ」
「そっか」

何でもないみたいに和さんは微笑う。
和さんの口許のえくぼ可愛いな、なんて、自然と思っちゃう俺は相当重症だ、知ってたけど。

「いいけどな、嫌われたって」
「へ?」

和さんに見入ってた俺を現実に引き戻す和さんの言葉。
また顔が近付いたと思うと、今度は和さんの分厚い舌が涙に濡れた俺の頬をべろっと舐めた。
しょっぱいな、なんて言いながらも和さんはその行為をやめようとはしない。

「か、和さ…っ」
「…嫌われたって、もう放さねぇよ」

きっと真っ赤になってるだろう俺の頬に、和さんはまるで口付けでもするように舌を這わせている。

ああもう、有り得ないくらい恥ずかしい!
なのに舐められた箇所が甘く俺に訴えてくる。

止めてほしくないって、
ああもう、俺の馬鹿!正直者!


「あ、きら、嫌いになんかならないッスよ…っ」
「ん、そっか?」

そう言った和さんは、イイ笑顔のまま俺の首に噛み付いた。
その舌が味わうようにねっとりと首筋を這っていく。
やわやわと痺れるような感覚が脊椎の辺りを電極にして全身の末端にまで行き渡って、背筋がぞくぞくする。
ああ、ちょっとだめだって!

「かずさん…!」
「んー、どうした?」
「どうしたもこうしたもないっすよっ、だめですって…っ」

和さん怪我してるのに。
なんて言葉は、熱い吐息と一緒に耳に入り込んできた舌にぐちゃぐちゃにされてしまった。
ぴりぴりとした感覚がどんどん強くなって、何も考えられなくなりそう。
あ、俺ったら、もしかして耳弱いとか?

「準太」
「…っ、は…い?」

若干ぼんやりしてきた頭に和さんの声が響く。
その声にはさっきまでの悪戯な音は一切なかった。

「ごめんな、ずっと言えなかったけど」
「…?」
「好きだ、お前のこと」


本当はもう、
片時も離れたくないくらいに、
ずっと前から好きだった。


少し赤みの差した和さんの顔。
その言葉に、やっと止まったと思っていた涙がまた溢れ出してきたのは言うまでもなくて。
俺は声を噛み殺しながら、今度は素直に和さんの舌先が俺の頬を拭うのを受け入れた。




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「勘弁してくんねぇかな…」
「いいじゃない、和己も準太も元気そうで」
「…そういう問題じゃねぇのよ、山ちゃん」

保健室の前で痛む胃を押さえていた慎吾は、気楽な声を出す山ノ井をねめつけた。
そんなこと、と一向に意に介さない山ノ井はへらりと笑うとわざとらしく声を潜める。

「良かったじゃない、準太の恋も叶ったし、和己の我慢も終わったわけだからさぁ」
「そりゃそうだけど」

俺だって素直に喜んでやりたいよ当たり前だろ、あんだけ真剣に悩んでた恋路だしな?
だけど、だけどさ。

「ここ、学校の保健室な!いちゃつくならTPOを考え…」
「はいはーい慎吾くーん、そろそろ中に入んないと、我慢というタカが外れた和己の暴走で学校のベッドが汚されちゃうかもしれないよー」
「え、嘘!?ちょ、待て!!」


この日を境に慎吾の常備薬に『胃薬』が追加されたのは、山ノ井と迅のみが知るところである。





Fin
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勢いって怖い!←

突発的な和準です。
ええカオスですとも!


てか、何だこの話。

あんまり武器とか職人とか関係ないとか、無駄に女の子な準さんの設定も生きて無さすぎとか、

突っ込みどころは山ほどあるって気付いてる!←


では何故こんなことになってしまったのか、理由は至極簡単なのです。

単にいちゃこらしてるふたりが書きたかったんだ!悪いか!

そして苦労人な慎吾さんと魔王な山ちゃんが書きたかったんだ!悪いか!


それにしても、準さん視点が楽しすぎてやばかった!

もう本当に楽しかったー!

なんか文章がけちょんけちょんな気もするけどかなり満足です、ごめんなさい。


一応設定も考えたことだし、別の話も書いてみたいとか思っちゃったりなんかして。←

その前に和さん視点の話も書きたいな、なんて!(お前さ



感想お待ちしています!





2008*0930 玖瑠璃

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