花という名の無法地帯
武器の心、職人知らず?(和準)
闘いの後は、特に自分の職人が傷付いた闘いの後はいつだってどうしようもなく不安になる。
だって、もしも。
武器の心、職人知らず?
「俺はお前を残して死んだりしねぇよ」
俺の言葉を聞いた和さんは、保健室の白いベッドの上で眉を顰めて笑った。
消毒液の匂いが空気に溶けて、まるで麻薬みたいに妙に心を落ち着かなくさせる。
「どうしてかわかるか、準太」
「…」
俺は答えなかった。
もしかしたらっていう希望はあったけど、間違ってたら取り返しがつかないくらい恥ずかしいし。
なにより俺が和さんにとってそんな立ち位置、占めることができているとは思えないし。
ああ、そう思うと余計に哀しくなってきた。
何も言えずに俯いていたら、和さんの節くれだった太い指が俺の黒い髪をつんと引っ張って、そのまま頬に触れた。
少し視線を上げると、和さんの腕に巻かれた包帯が目に入る。
赤い血が滲んだそれは、掠めただけだと当人が笑っても痛々しくて仕方ない。
そんな俺の心配をよそに、和さんはぽつりと呟いた。
「それはな…お前を他の誰かに使われるのはごめんだからだ」
「…!」
その声に顔を上げたら、予想以上に近い位置に和さんが居た。
和さんの瞳に映り込んだ俺はかなり間抜けな顔をしていた。
それくらいびっくりした。
だって、今。
「…あ、え?」
「もしかしたら、俺は自分が死ぬ前に、お前を壊しちまうかもしれねぇ」
少しだけ狂気を孕んだように鈍く光る和さんの瞳。
俺の首にかかる和さんの指先。
ああ、嫌だ。
嬉しくて、
壊れてしまいそうだ。
「いい、です…よ」
俺はゆるゆると和さんの腕に触れた。
俺の首にかけられた指がぴくりと動く。
「殺して下さい、俺もその方が幸せッスから」
和さんと一緒に逝けるなら。
言ってしまった後、俺は妙に恥ずかしくなって、ごまかすように俯いて小さく笑った。
呆れてるかな、
ただの武器がいっちょ前にこんなことって。
窺うように視線を上げると、和さんは俺の予想に反してとても驚いた顔をしていた。
そして、俺は動けなくなる。
「ありがとな」
ふ、と緩んだ和さんの口許。
俺の首にあった指先が俺の唇に触れて、顎をなぞる。
まるでとても大切なものでも愛でるような和さんの眼差しに胸が苦しくなった。
息を吐くのも難しい、声も出せなくなるようなそんな感覚。
だめだ、
迷惑なんてかけたくないのに。
泣いてしまいそう。
そう思った瞬間だった。
「…もう無理だ」
そう呟いた和さんの顔が近付いてきて、あったかくて、少しかさついたものが唇に重なった。
キスされた。
そう気付いたのは抱きしめられた後だった。
驚く間もなく、俺の身体は座っていた椅子から和さんの上へと転がった。
パイプのベッドが二人分の体重にぎし、と軋んだ。
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