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花という名の無法地帯
二律背反の君を説くー君に花束をUー(阿部と三橋)

おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説くー君に花束をUー


パタタタタ、パタタタタ。広葉樹の大きな葉の上に弾けた雨が眠たくなるような間隔で降り注いでくる。べったりと身体に纏わりついた隊服が重い。滴り落ちた水滴が足元に小さな水溜りを作っていた。曇りのない水の鏡には、黒髪、黒眼、黒い刀が映り込んでいる。
東京行きを明後日に控えた今日という日に俺は大きな誤算をしてしまった。多くの不確定要素が悪い方向で重なり過ぎた。見回りに出たまでは良かったのだ。しかし、今日に限って正規ルートを外れて少し遠回りをしてしまった。そして、今日に限って中級クラスのケモノが多く出た。ついでに帰り道に大雨に降られた。そして、にわか雨だろうと高を括って樹の下で雨宿りをしたが、止む気配などなく今の今まで延々と降り続いてしまった。何より、今現在、変則的な編成で見回りに出ているにも関わらず、今日の担当が俺と三橋であった。まあ、つまり俺の誤算は、長時間、三橋と二人きりでいる時間を作ってしまったことだ。
薔薇を渡されたあの日以降、俺は出来る限り三橋との接触を避けてきた。三橋のことは良い奴だと思っている。静かに真っ直ぐに努力ができる奴だ。そういう面では好ましいと思っている。思ってはいるのだ。しかし。そうやって、今の今まで先延ばしにしてきた結果がこれだ。結論が出ていないという最悪の結果。水溜りの中の黒い瞳と目が合う。何とも情けない顔をしている自分に嘆息せざるを得ない。
「あ、べ、くん…」
「…っ、なに」
「寒く…ない?」
「おー俺は大丈夫だよ。お前は?」
「俺っも、だいっ、じょーぶっ、だよ!」
会話が途切れた。右隣から聞こえてくる息遣いは非常に落ち着いている。昔は少し苛々することもあった三橋の喋り方は今や恐怖の対象でしかない。次は何を言われるんだろう。とうとう聞かれてしまうのだろうか。実は少し寒い。吐きだした吐息は薄ら白かった。
「あべ、くん…」
「…なんだよ?」
「東京って、何を持ってけばいいの…かな」
「あー?そうだなあ…武器と着替えと…無線……て、遠足じゃねぇんだから」
「そ、だねっ」
「…」
「……」
「………」
「阿部くん…」
「なに?」
「あのときの、事、俺、スキ、って」
どくっと腹の底が心音と同時に冷えた。来てしまった。どう答えようか。今この状況で三橋のモチベーションを下げるのは好ましくない。普段はどんな逆境に立たされていても幾らだって次の策がすぐに浮かぶっていうのに。
「…三橋、お前はさ、その、俺の何処がスキ、なの」
「ぜっ、全部、だよ!!」
全部。随分とコドモみたいな言い草だ。全く、口説き文句としては三流にも程遠い。けれど、三橋が言うからこそ二の句が継げない。笑い飛ばすこともできない。一所懸命な言葉、だから。
「髪の毛も目の色も、タレ目もっ、か、可愛いよねっ、肌も綺麗、だよっ!」
「か、かわいいって…お前……見た目?」
「ち、が、…よっ」
普段は視線を外しがちな三橋が真っ直ぐに俺を見つめる。
「阿部くんは、俺をっ、認めてくれた、から…!」
頑張っている奴を認めて、好きだと感じることは普通の人間ならば当然だろう。今まで三橋のいた環境が悪かったのだ。だから今を幸せだと感じるのだ。
しかし、それを言って何になる。このチームに入って前向きになっている三橋の気持ちを折ってどうする。なんで俺なんだ。ああ、きっと勘違いなのだ。暖かさが欲しい、こんなご時世だから誰かに寄り添って生きていきたい。
その相手として、選ばれたのが俺なんだ。
「おっ、れ…!!」
真正面に三橋が立つ。ぎゅうっと二の腕を掴まれて、華奢に見えるのに力強い三橋の握力にたじろいだ。いつもの頼りなさは感じない、あの、俺の背中を守る為に銃を構えた時の真剣な表情。
タカヤ、なあタカヤ。声が聞こえる。あの気の強い我儘な顔が浮かぶ。だから、あいつは関係ない。もう関係ないんだ。今は。ぎゅうっと目を瞑る。急速に心が落ち着いた。俺は、今、俺が言うべき最良の結論を簡潔かつ明瞭に答えた。
「………いいよ」
「……え?」
「だから、付き合おうよ。好きなんだろ、俺が」
小さく頷いた三橋が少し躊躇った後、おずおずと俺の頬に触れる。震える指先が三橋の緊張を俺に伝えていた。しかし、触れた唇はあの時の柔らかさと同じだ。
雨はどうしたって止ませることはできないが、寒さは少しだけ和らいだ気もする。ああ、人のぬくもりが欲しいのはきっと俺なのだ。会いたいなんて言えない。


(あの日の薔薇は痛みと共に鮮明に、色褪せることもなく俺の胸の内)


Fin
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西浦の頭脳である阿部はチームの調和と損得で物事を考える人です。『戸田北』の件があるからチームのよりよい存続のために慎重になっています。
花井と阿部と栄口の三人を足してちょうど均整がとれる幹部メンバーです。花井が先頭に立って指揮して、阿部が作戦と折衝を考えて、前の二人が実際にチームに顔を出せないことも多いから普段のチームメンバーを見守るのが栄口。
栄口は自己犠牲に走りがちな二人のストッパーでもあります。

感想お待ちしてます。

20120229 玖瑠璃


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