[携帯モード] [URL送信]

花という名の無法地帯
二律背反の君を説くー君に花束をー(阿部と三橋)

おお振り異世界パラレル
-----


二律背反の君を説くー君に花束をー


パチンパチンパチン。ブーツの留め金を嵌めていく。ジャケットを着て、腰には揃いの刀を二振り差した。生活感の無い部屋に似合わず装飾が施された鏡には、黒髪、黒眼、黒い刀が映り込んでいる。
ついでにコートまで真っ黒だったものだから(それは今も変わらないけれど)、昔は「鴉」なんて呼ばれていた時期もあったと自嘲する。何も守れなかったあの頃。全てが辛い思い出ばかりではないのだけれど、思い出しても、もう会えない人の方が多かった。
「あ、べ…くん」
「…三橋」
蜂蜜のような明るい茶色の猫っ毛が光に透けている。見た目には一丁しか担いでいないようだけれど、その隊服の下には何丁もの銃を隠し持っていることを俺は知っている。
いつの間にか俺の部屋に入ってきていた三橋はそわそわと視線をさ迷わせた。うう、イライラする。以前と比べれば、そりゃあ戦闘中は意志疎通もできるようになってきたとは思うけれども。まあ、命ひとつ預けてんだから、ここに至って未だにアイコンタクトもできないようでは、それこそオハナシにならない。
「…今日は、阿部くんも…見回り」
「おー、いくら副キャプテンっつてもな。篭ってばっかじゃ腕が鈍んぜ」
花井をはじめとして、動けない騎士が多いのであれば尚更だ。他の戦線地区に隙を見せないためにも、俺が外に出なければならない。田島は花井はべったりだし、水谷は足に怪我をしているし(それにしても今回のコイツの怪我に関しては騎士としての意識を疑う)、巣山は腕の骨折だけであるから見回りには参加しているが、実際に襲われたら応戦することはできない。事実上、戦闘に参加できるのは、俺を含めても三人。そろそろ、田島にはこっちに参加させねえと。ああ、アタマ痛ぇ。
「…そういえば、阿部くん、も、トウキョウ…行くんだ」
「ああ。今回の件を含めて中央に報告行かねえとな。花井は治療に専念させなきゃなんねーし」
「俺…も、行って、…いい…?」
「東京に?当然、俺達バディだろうが。信じてんぞ」
とは言っても、最近決まったばかりなのだが。そういえば、花井、田島、三橋、俺が抜けるのだ。その間のことも考えなければならない。まず、キャプテン代理は栄口に任せるとして、見回りは浜田さん達と、いざとなったら、『崎玉』に応援を、

ぱさっ。

突然だった。目の前に眩しいほどの赤色が落ちる。近すぎて見えない。顔を離すとそれはそれは真っ赤な薔薇だった。差し出しているのは三橋。
何故こんなものを持っているのか以前に、俺は何が何だか分からず、三橋の顔を全力で窺う。びく、と三橋が震えた。また俺は三橋のことを睨んでしまっているらしい。そんな気はさらさらないのだが。
「……………なに?」
「あっ、う…あべ、」
「だからなにっ?」
「あ…あべ…く、き、だ…」
「あぁ?くきぃ?」
そう聞き返した瞬間、一瞬の出来事だった。俺の唇に柔らかな感触。三橋の顔が酷く近い、いや、近いどころじゃない、口が、口と口がくっ付いてる。
次にちゃんと見た三橋の顔はそりゃあ差し出された薔薇と同じくらいに真っ赤で、きらきらの琥珀色の瞳には俺が映り込んでいたのだ。
「俺、阿部くんがスキ、なんだ!」
珍しくはっきりと喋った三橋だったが、さて、その上擦った言葉は俺の理解の範疇を遥かに超えていた。コートを翻して走っていった三橋の背中が自動開閉のトビラの向こうへと消える。
濃灰色の床の上に真っ赤な薔薇が落ちる。ふと、気の強い、前のバディの顔が浮かんで、俺は振り払うように頭を振った。あいつはもう関係ない。違うチームなのだ。
真っ赤な顔だった三橋を思い出す。スキ、というのはつまりそういう意味なのだろう。だから薔薇なのか。しかし、よりによってなんで薔薇なんだ。ああ、今から一緒の見回りなのに、俺は果たしてどのような顔をして三橋に会えばいいのか。どうするのが得策なんだ。下手をしてチームの空気が悪くなるのはダメだ。そういう問題か。俺は、一体、どうすれば。
「わかんね…」
ちらりと視界に入った鏡に映った俺はそれこそ三橋と同じくらい真っ赤な顔をしている。俺は息を吐くと、落ちていた薔薇を机の上に置いたのだった。


(二本目の薔薇は刺のひとつもなく、痛いほど優しい)



Fin
-----

三橋は薔薇というイメージじゃないかなとも思ったのですが、話の関係上、薔薇にしました。でも、単純明快に愛を伝えるとすればやっぱり薔薇ですよね。うんうん。ちなみに薔薇は泉君からお裾分けしてもらいました。
タジハナ組より阿部達の方がそういう意味で先に進展するというよくわからない事態ですみません。阿部は榛名と三橋の間でぐらぐらしていればいいと思う。
ちなみにキャプテンと副キャプテンは司令室に篭って作業をしていることが多いです。なので、自然と司令室近くの仮眠室とシャワールームを使うことが多くなるので、騎士全員に割り振られている居住区の二人の部屋はあんまり生活感がありません。
あと、バディは「最近決まったばかり」と阿部は言っていますが、チームが始まった時点で組み合わせを幾つか考え、その中で最良と考えられる組み合わせで試用を行っていたので、正式にバディが決まったのが最近というだけであって、実際には阿部と三橋は最初からこの二人組で活動していました。Uでありましたが、花井と田島も同様です。

感想お待ちしてます。


20120229 玖瑠璃

[back][next]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!