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花という名の無法地帯
二律背反の君を説く\ 後編(田島と花井)

おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説く\ 後編


攻めてきた敵はあらかた殺したはずだ。居住区は血と肉片と死臭に満ちていて、全てが終わった後にここにまた人が住むのかと思うと少しばかり気が重かった。
一緒に戦っていた花井は残党がいないか確認しに行った。俺はと言えば、門の前に立って牽制をしているわけだが、さて、どうやら門の向こう側の残党にはもう戦う意志は無いらしい。
あっけなかった。しかし、白旗が挙がらないかぎり、攻略戦争は終わらない。一応、身体を確認したが、擦りキズや打撲はあるものの大きな怪我はしていなかった。『荒川』を離れて随分と経ったけど、腕は鈍っていないようだ。
花井。花井は今日もとても綺麗だった。花井の大剣は敵を叩き伏せて、血飛沫に染まる花井は楽しそうで、俺もとても楽しかった。先日のことで花井は少しばかり俺に心を開いてくれたようだった。嬉しい。けど、俺は別に花井に好きになってもらいたいわけではない。花井が欲しいだけだ。
あれ。おかしい。そんなはずはない。俺は花井に好きになってもらいたかったはずなのだ。仲間として、阿部や他のみんなと同じように扱ってほしかったはずなのだ。最初は。けど、花井が欲しい。真っ白で綺麗な花井が欲しくて欲しくて堪らない。いつの間にこんなに歪んだ。俺は、どうして。
「田島!!」
「…っ!?」
真っ赤な光が俺の身体を掠めた。熱い。焼けて火の粉をあげる大地に、俺はもう数メートルのところで死んでいたことがわかった。蒼白な顔をした花井が走ってくる。花井!しかし、その反対側からは真っ白なマシンが俺を目掛けて移動してくるのだ。おそらく、アレが今の熱線を撃ったんだろう。
アレがどこから沸いてきたかはわからないが、アレ自体は知っている。オートキラーだ。俺が『荒川』にまだ居た頃、使用の打診があったはずだ。しかし、ウチは断った。性能はさておきAIに問題があり過ぎたのだ。確か、どこかの地区が性能実験で壊滅したはずだ。この世界では一日に幾つもの地区が攻略戦争をし、なくなっているから、何処の地区だったかまではわからないのだけれど。
「田島、こっちこい!!」
花井の方に駆け寄ると、オートキラーもこっちに照準を向けた。俺達は塹壕に潜って武器を構えた。
「なんでアレが?」
「地下道を使って運搬されてきたみてぇだ。西広のレーダーで感知できなかったのが引っかかんだけど…、中にも2機、行っちまったらしい」
「嘘だろ!?大丈夫なのか!?」
「阿部が帰ってきた。あいつが攻略法を知っててさ」
「………、まさか、阿部の『戸田北』って…」
「…詳しいことは聞いてねえ。けど、背中、…というか、上部の外殻を剥がして、一番太くて赤い配線を切れば止まるらしい」
「ジョウブのハイセン…」
「俺が囮になるから、田島、お前が切ってくれ」
「! 危ないじゃん!」
「ああ…確かに上に登るまでは大変だと思うけど、俺がサポートすっし」
「違うよ!!花井が!!」
花井はきょとんとした。飴色の瞳が諦めを通り越して、呆れたように細まる。
「お前、やっぱり俺を…」
「信用してる!だけど、危ないもんは危ないだろ!」
「そりゃあ、お前も…」
「それはっ、そうなんだけどさあ…」
胸がどきどきする。苦しい。足元が無くなるような感覚。俺が行くから、戦うから、花井はここに居てほしい。
花井が構えていた大剣を下ろす。土煙がたって、顔を挙げると花井の掌が目の前にあった。額をぎゅうっと押される。
「うお」
「…お前のことは、『荒川』のことはそれなりに知ってる。けどなぁ…」
花井は深く息を吐いた。そして、少しだけ自信がないように躊躇って、でも、力強く言った。
「俺は、死んだりしねぇぞ!」
目の前がはっきりとした。もやもやしていたものがなくなって、地面に足をつけて立っている感覚が鮮明になる。
「…っ、そうっ、だよな!」
「よし、…っくぞ!」
塹壕から飛び出して走り出す花井を追いかける。オートキラーの懐に飛び込んで、その、爪のようなアームを受け止める花井の肩を蹴って、上部に立った。
空が青い、広い。今までの真っ黒かったものが溶けだすような気がした。そうか、俺は、ずっと、寂しかったのか。ずっと一緒に戦ってきた仲間がいなくなってしまって寂しかったんだ。
もう失いたくない。仲間も居場所も全部。最初から守るって決めていたはずなのに、どうやら俺はその本質を忘れてしまっていたようだった。花井は死なないって言った。多分、皆も大丈夫なんだ。だって弱くない。そうか。そうだよな。
でも、おかしい。俺はやっぱり花井が欲しい。俺は、ただ花井に死んでほしくないだけじゃない。必ず居てほしい。絶対に俺の傍に居てほしい。そうか!俺は、花井のことが好きだ。多分、仲間としてだけじゃなく花井が好きだ。花井が好き!だからこんなに欲しいんだ!ああ、すっきりした!花井、伝えたい!花井!
外殻を外すとすぐに配線が見えた。切り裂くのは簡単で、揺れた機体から飛び降りると大剣を下ろした花井が見えた。
花井は一息ついて、漸く、久し振りにちゃんと笑った。俺に向かって初めてちゃんと笑った。好きだ。
「花井!俺…」
「…あっ、た、じ…っ、田島!!」
花井の声を掻き消すように、赤い光が目の前を遮る。肉の焼ける臭いは確かにするのに、俺に痛みはない。
どうして痛くないのかは考えたくもなかった。最後の力を使い果たしたように音をたててマシンが止まる。俺を庇った花井は、

花井は。


(せっかく答えは見つかったのに)

Fin
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うちの田島さまはよく考える子になってしまった。もっと右脳で動く子ですよね。でも、すごく空気を読む子らしいから実は考えてもいるだろう。
ていうか、田島さま、花井花井言い過ぎだ。どんだけ好きなんだ。私か。
ちなみに次で最終話です。まとまるといいなあ。

感想お待ちしてます。


20111220 玖瑠璃

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