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花という名の無法地帯
二律背反の君を説く\ 前編(戸田北と西浦)

おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説く\ 前編


少しばかり昔の話になるのだが、俺の守護地区は激戦区でこそ無かったものの、大型の工場群がすぐ近くにあったものだから、正直あまり安全地帯という気はしなかった。
その規模といったら、煙突から常に噴き出している青白い炎とどす黒い排煙で空が覆い尽くされてしまうほどだった。まるで、造り物の空だ。(そう言ったら、バディだった奴に夢見がちだと鼻で笑われたのだが。全く失礼な奴だ)
ある日のことだ。何処かの工場からウチに荷物が届けられた。ジープ程度の大きさのものが5つもだ。中身は知らされず、ただ、当分の間、その荷物を守ってくれと頼まれたのだ。ウチの基地はしっかりとした倉庫設備が整っていたから、保管場所として選ばれるのは当然のことであったし、だから、疑問は持たなかった。

その夜、俺達は地獄を見ることになる。

「…大丈夫か!?」
「…っ、酷いですね、コレは」
目の前に広がるのは無残な瓦礫と火の海だった。焼け焦げる血肉の臭いに吐き気がする。在り来りな言葉で言うが、本当に何が起こったのかわからなかった。
ただ、爆発した格納庫の中から見たこともないマシンが現れて、そして暴れ始めた。それが昼間、工場から送られてきたアレだと悟るまでに時間はかからなかったけれど、気が付いたからといって何がどうなるわけでもない。ゴミ屑のように薙ぎ払われる仲間、熱線に焼かれていく地区の住人達、燃え盛る炎と焦りで頭が割れそうだった。
「…っ…あと、何機だ?」
「…は…ひとつ、壊しました」
俺もひとつ壊した。三人がかりで漸く倒したというのに、俺以外の奴は皆、殺されてしまった。送られてきたのは全部で5機。少なくとも、あと3機は残っているということだ。
剣を見れば刃が毀れてしまっている。ああくそ。それにしてもこの事態はなんなんだ。ただの預かり物のはずなのに。事故か、そうではないとしたら何なのか。何だというのか。
ああ本当にあっちーなァ。それでなくても頭は良い方ではないのだから、情報処理なんて、この状況でまともにできるわけもない。それにさっき飛んできた硝子がぶっ刺さって右腕が上がらない。本当に痛ぇしめんどくせぇ。
それに、大体において考えるという作業は俺のバディの専門だ。
「なあ、タカ…」
「…ときっ、さ…!」
このタイミングで呑気に考え事をしていた俺が悪いのだ。ほとほと悔やまれる。今まで何処に隠れていたのか、マシンの1機が俺の背後に迫っていた。鈍い機械音。その長く鋭い腕が動いたのだ。
衝撃と血飛沫。俺の身体は吹っ飛ばされたのだけれど、その血は俺のものではなかった。
「タカヤ!!」
俺のバディだった阿部隆也は俺の居るべき場所に居て、俺を仕留めるはずだったマシンの爪は確かに振り下ろされていた。タカヤの左脚は宙を舞って、ボトリと俺の横に落ちたのだ。

この日、俺達の『戸田北』は壊滅した。遅すぎる援軍に俺達は助けられたのだけど、空虚にも似たこの痛みが、一生、ひかないことはわかっていた。
沢山の仲間と住人と、タカヤの左脚を犠牲にして、あのマシン、「オートキラー」は永遠に、廃墟となった『戸田北』の格納庫に葬られることになったのだ。
そうなったはずだったのだ。

‐‐‐‐‐

怒りや憎しみを通り越して、懐かしいとすら思った。簡単なことだ。オートキラーの設計者すらコイツの危険性は承知していたのだろう。上部の一番ぶっ太い配線を切っちまえばコイツは止まる。
つるりとしたコイツの背中に剣を突き入れる。瞬間的に動きが止まった。オートキラーが放った熱線に空気が爆ぜていた。
「元希さん!なにちんたらやってんすか!さっさと切れって!!」
「わーってるよ!!」
剣を捻れば簡単に蓋は外れた。血管のように脈打つ動力炉に繋がる配線を、俺は一気に引き裂いた。ガクンと揺れて機体が停止する。
安置なんて生易しい処置はコイツらには甘すぎた。破壊しなければならなかった。徹底的にだ。どうしてコイツらがまた動き出したのか、ここに居るのかはわからない。けれど、とうとうピリオドだ。
「終わったか。なあ…タカ…」
薄情なことにタカヤは俺の横(正確には停止したオートキラーの横)をさっさと通り抜けて、仲間の元へと駆け寄って行った。助けてやったのに礼もなしか。可愛くねえ奴だなあ。今に始まったことではないけれど。
「泉、水谷たちも…大丈夫か?」
「阿部!それに…榛名?榛名元希?『武蔵野第一』の…」
どうやら名前は知られているらしいが、残念ながら、俺はこの茶髪を知らない。オートキラーを睨み付けていた黒髪が怪訝そうな面持ちで口を開いた。
「それはそうと…阿部、随分と簡単にコレを止めたじゃねえか」
答えづらい質問に違いなかった。タカヤはどうするかと思ったけれど、ある意味、俺達の口癖のようになった言葉をはっきりと言った。
「…それについては箝口令が敷かれてる」
黒髪が目を見開いた。俺とタカヤを見比べて、納得したように口を噤む。お前の仲間は利口で助かるなあタカヤ。いや、そっちの茶髪と金髪はわかってねぇみてぇだけど。
「今からコイツの弱点を教える。すぐに皆に伝令を―…」
どうやら、俺の出番はここまでのようだ。もう大丈夫だろう。ここは『戸田北』のようにはならない。そうだろう。俺達は追い遣られない。もう失わない。
俺も帰ろう。皆が待っていてくれるはずの場所へ。


(血に濡れた過去は消えない。けれど、人は強くなる。今度こそは守るためにと)

Fin
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今更ですが、設定が中二ですみません。オートキラーとか。今更ですが名称が無いとめんどくさいかなって思ったんです。直訳で自動殺人者です。英語力はありません。
そして前話の更新から1年以上経ってて更にすみません。あまりにも間が空き過ぎて文体が変わってしまっているような気がします。あちゃー。

感想お待ちしています。


20111220 玖瑠璃

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