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花という名の無法地帯
二律背反の君を説く[(水谷と浜田)


おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説く[


どうしてこうなったどうしてこうなったどうしてこうなった。
圧倒的に優勢だったのだ。予想通りと言うのは失礼かもしれないけれど(敵に失礼も何もあったものじゃないが)、攻略戦争を仕掛けてきた戦線地区の連中はやはり俺達の敵ではなかった。花井や田島が敵を薙ぎ払っていくのを見ながら、俺は二人が後ろに任せて零した敵を射っていくだけで良かったのだ。確かに優勢だった。それなのに。

あのマシンはなんだ。

あんなもの今までに見たことがなかった。俺は非常に化物が嫌いだったけれども、矢が刺さらない分あのマシンの方が何倍もタチが悪い。鉄壁のような外殻は茹卵みたいに白いのに奴らが吐き出す熱線は血液よりも赤いのだ。全く気分が悪いったらない。
弓矢が効かないということで俺はまるで用無しになってしまった。ついでに足まで怪我してしまって文字通りの足手まといだ(使い方が違うのは知っているけれど、これが一番しっくりくる)。三橋は何処に居るだろうか。一緒に敵を片付けていたはずなのに、さっきの爆発で逸れてしまった。無事ならば良いのだが。花井と田島はまだ居住区の方にいるのだろうか、頼むから早く戻ってきてくれよ。基地が、このままじゃ第二層どころか第三層も危ないんだ。沖の迎撃システムだっていつまでもってくれるかわからない。西広からの定時連絡は随分前から途切れてしまっている。まさか管制塔がやられたとは思いたくないが、あのマシンの爪の鋭さといったらチタンの壁をまるで紙のように剥いでいくのだ。外延部で一番頑丈に造られている管制塔だって危ないかもしれない。巣山と栄口がマシンを追って行ってから随分と経つが果たして無事だろうか。心配ばかりが尽きない。ああ火の手がこっちまで。
「水谷!」
「浜田、さんっ!?」
サイレンの赤いランプが激しく点灯する中(火にしても血にしても今日は本当に赤色に縁がある日なのだ)、浜田さんの金髪は濁った橙色に見える。オレンジを手で絞ったような、いやいやいやそんなことはどうでも良いのだ。
「避難、したんじゃ…」
「途中まで行って引き返してきたんだよ。俺だって元ナイトだかんな。だからさ」
何とも屈託なく笑う浜田さんは驚くほどいつもの浜田さんだった。こんな状況にも関わらずいつもの浜田さんなのだ。その穏やかな声に今までの焦燥が嘘のように心が落ち着いたのは確かだった。けれど。
「浜田さん、」
戻らなくちゃ駄目だよ。泉が、泉が怒る。誰よりも何よりも泉が浜田さんのことを気に掛けているってこと、浜田さん自身、知らないわけじゃないだろうに。
ずっと前線にいた泉が誰を思って軍医に留まり続けているかなんて馬鹿な俺にでもわかる。泉は決して素直な性格とは言えないから口には出さないだろうけど、泉は他人の匙加減では推し量れないほど浜田さんに心を砕いているのだ。一分一秒でも生かそうと努力しているのだ。それなのにそのあなたが此処に立っていては駄目だ。そのあなたを此処に立たせていては駄目なのだ。泉に顔向け出来なくなってしまう。
「浜田さん戻ってください、おれ大丈夫ですから」
「ばーか駄目だ、大腿部からの出血が酷い。このままだと失血死しちまうぞ。後は俺が、」
「ダメだよ!それこそ、あのヘンテコな機械の壊し方もわからないのに!」
「だから俺が行くんだろ」
「え?」
「矢も刺さらないし刃も立たないんだろ?だったら次はぶっ叩くしかねぇじゃねーか」
見ない振りをしようとしていたのだ精一杯。浜田さんの背中には現役時代に彼を雷神とまで言わしめた大槌が確かに背負われていた。まさか戦う気なのか。そんなの。
「だからダメだって言っ、」
「はまだあ!!」
ばっこーんってそんな漫画みたいな。見事どころの騒ぎじゃないくらい見事に命中したリュックサック(おそらく医療セット入り)が浜田さんの側頭部に大打撃を与えて下に落ちた。うあああ泉来ちゃったよ。
確か泉は敵が突撃してきた際に出た怪我人の治療の為に第二層に居たはずなのだ。そちらはもう大丈夫なのだろうか。甚だ聞ける状態ではないので口を噤むことにするけれど、泉は自分の持ち場を勝手に空けたりする奴じゃないから、少なくとも一段落はついたのだろう。
それできっと第三層に避難状況の確認に行ったのだ。そうしたら浜田さんが居なかったと。それはそれは逆鱗だ。
「てめーふざけんなよ!?」
「いずみぃ…首とれる」
「取れろ!そして死ね!!」
死ねと明確に言っているあたり、さっきのマシンよりもよろしくないような気がしたけれど、それでも肩で息をしている泉は酷く安堵したような顔で浜田さんを見ていた。ああもう本当に必死だったに違いないのだ。
「水谷!」
「うっ、はいっ」
「さっさと足だせ足!」
さっき浜田さんにヒットしたリュックサックから包帯やらガーゼやらを取り出した泉は流石というべき手際の早さで俺の脚を治療していった。そんな大切なものが入ってるもの投げないでよ泉、なんて決して言えない。
「とりあえず応急処置だ」
「やーずいぶん楽になったよ気分的に。ありがとー泉」
「お前、第二層まで戻れっか?」
「うん?」
「俺の代わりに患者を見てくれ。お前らのおかげで酷い怪我人はいねぇから。それに診るだけ診てきたし」
立ち上がる泉の姿は酷く凛としていて、その瞳は炎とサイレンとが交錯する空間で爛々と輝いていたのだ。
「俺が行く。浜田」
「…泉、」
「10分だ」
「へっ?」
「ただし、10分で蹴りがつかなかったら麻酔ぶっ刺して簀巻きにして第三層に放り込んでやるからな!」
泉の声音は何処までもはっきりしていて、けれど少しの不安は確かに感じて取れた。それでも泉は浜田さんの誇りを立てようとしているのだ。本当にかっこいいなあ泉は。浜田さんは二度三度瞬くと、困ったように笑ったのだ。
「悪いな、いず !」
浜田さんの声が途切れた瞬間。突然ばりょんと壁が剥がれた(こんな鳥肌が立つ音を聞いたのは生まれて初めてだ)。ばらばらと散る壁や電灯の残骸にまみれながら、泉と俺を抱えた浜田さんは間一髪で飛び退さった。ギュイと嫌な機械音に背筋が寒くなる。
「一匹じゃなかったのかよ!」
「西広とは結構前に音信不通になっちまってたからな、その隙に増えてたとしてもおかしくねぇ」
「なんにしろ、これが何体もいるのはちと厳しーぞ」
泉が白衣の下から鎖鎌を流れるような動作で取り出す。チキ、と音をたてた切っ先は果たして目の前のバケモノにどれだけ対抗できるのだろうか。刹那。
「浜田退け!!」
何のモーションもなくマシンの無機質な眼球から熱線が放たれた。空気と物質が蒸発する音に大気がビリビリと痺れた。火炎とも煙ともつかない熱気に視界が遮られ、目が痛くて涙が出る。プラスチックの焼けた臭いが鼻をついた。
「泉!」
「無事だ!」
良かった。けれども浜田さんに抱えられたままの俺は本当に足手まといだ。悔しい。浜田さんの腕に力が篭るのを感じる。
「泉!次がく、…る …?」
突如マシンが動きを止めた。煙が晴れていく中で、熱線の残り火が無機質な白い背に突き刺さるクレイモアと研ぎ澄まされた刃のような人影を映し出したのだった。


Fin
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ちょっとした山場だったはずなのに水谷視点にしたせいか、緊張感がきんちょうかんになりました。自分の技量不足です決してクソレフトのせいじゃありません。けれどまあ浜泉もどきが書けたのでよしとしたいです。泉くんは西浦で1番男前だと信じて疑いません。
白いマシンは色々とかっこよくイメージして下さると助かるのですが、どうしてもイメージが浮かばないという方は大きな大きな茹卵か牛乳プリンのような胴体に六本脚と赤い目をひとつばかりくっつけてみて下さい。何か残念な気分になります。それにしても本当に好き勝手にやってしまっているなあ。バラレル万歳!

…というのを6月中に書いていました。ひいいい、完成してたの放置って何!更新滞っていてすみませんでしたー!!

2010*0924 玖瑠璃

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