[携帯モード] [URL送信]

花という名の無法地帯
二律背反の君を説くZ(花井と田島)


おお振り異世界パラレル
-----


二律背反の君を説くZ


眩暈がするようだった。考え過ぎて頭が痛くなるなんてまるで子供のようだけれどこればかりは仕方がない。一人で悩んだって解決しないことは目に見えているというのに、このタイミングで相談役の阿部がいないというのは一体どういうことなんだろうか。(阿部が悪いわけでは決してないのだが、何と間の悪い奴だと思わずにはいられない)
もう一人の相談役はさっき食堂にいたと思ったのだが、そこには確か田島も居たのだ。俺は立ち止まった。
正直に言えば俺は田島に頼りたくなかった。けれど俺は今この状況で誰に言葉を貰えばいいのかを明確に悟っていて、その相手が阿部でも栄口でも他の誰でもないことも理解していた。
わかっているのだ。田島は俺よりも優れた存在であって、助言を求めればそれはそれは俺には考えもつかなかったような見解を与えてくれるのだろう。だからこそ張り合いたくなるのだ。俺だって負けていないと声を大にして言いたくなる。
けれどもやはり田島は優れた存在であって、どんなに必死に手を伸ばしてもどうしてか触れることすら叶わないのだ。往々にして努力しても田島はいつだって更に先に行ってしまっていて追い付くことが出来ないのだ。
「花井」
突然のことだった。肩が跳ねて首がグキリと音をたてた。痛い。痛いけれども動くことも振り向くことも出来なかった。まだ幼さの抜けきっていない凛とした声。今、最も聞きたくない声だった。
「皆、意外とヘーキだぜ」
「…そうか」
「水谷とか三橋とか、もっと慌てるかと思ってたんだけどさ」
「…そうだな」
「花井は?」
「は、」
「花井はヘーキ?」
氷水でも浴びせかけられたのかと思ったのだ。震える身体の外側は大理石にでもなってしまったかのように重く冷たいのに頭蓋の奥だけが締め付けられるように痛む。じくじくと黒い炎で内臓が焼かれているようだ。
田島、お前は俺を認めていないのか。キャプテンなのに、俺はキャプテンなのにお前にとってはチームメイトの誰よりも頼りないのかよ田島。
「花井」
足音が近付いてくる。頼む田島。頼むからこっちに来てくれるな。噛み締めるので精一杯なのだ。どうにか耐えるから取り敢えず今は話し掛けるなって。
「花…」
「田島、」
「花井?」
「俺はそんなに頼りねーか?」
ああほら言ってしまった。ギリギリのところで踏み止まっていたはずなのに僅かな矜持さえも失ってしまった。一度零れた言葉は止まることを忘れたようにボロボロと俺の口を衝いて出た。
「頼りなくて悪かったな。俺はお前はみてぇにはなれねぇよ、お前みてぇな余裕は俺にはないんだよ田島、俺は、」
お前のようには決してなれない。何もかもが違うのだ。
強い田島、お前はその小さな身体で大切なものを護りきることが出来るのだろう。仲間が死ぬのが嫌だと言ったあの日の言葉に違わず護り通すのだろう。それに比べて俺はなんだ。背丈ばかり大きくて指先は何も掠めやしない。零れ落ちていくだけなのだ。何も掴めやしない。自信なんか欠片もない。俺はどうしたってお前のようにはなれないよ田島、だけれどそれをわかっているからこそ求めて止まないのだ。
「…羨ましいよ、俺はお前が」
偽りようのない本音だった。情けない。しかもその劣等感や嫉みを田島自身にぶつけてしまっているなんて余計に醜くて目もあてられやしないじゃないか。ああもう酷い酷過ぎる。
田島が息を飲んだ気配が伝わってきた。何故だかは良くわからなかったけれど、俺は田島の心を乱すことが出来たという変な優越感に更に自己嫌悪に陥ったのだ。
「…花井、」
「…はは、いきなり意味わかんねーよな。ごめん。なあ、悪ィけど一人にしてくんね?」
「…やだ」
「田島、頼むから」
「いやだ」
声と同時に腹にタックル。物凄い衝撃だった。声も出ない。声の調子が普段の田島からは想像も出来ないほどに落ち着いていたから完全に油断していた。もちろん慣性に従って俺と田島は床に倒れ込んだ。下敷きになるのは俺であったから二重に痛い。
「…たじ、たじま、痛ぇよ」
「花井は頼りなくなんてねーよ」
「…、うそつけ」
「嘘じゃねーよ。お前、皆のこと考えて行動してるし。慎重に指揮とってるだろ、あれは俺には出来ねぇよ。それに優しいし真面目だし、だから全然、頼りなくなんてねーよ、花井は…」
田島の声が徐々に掠れて小さくなっていく。隊服を力の限り掴まれて身じろぎも出来ない。苦しい。ああ何故だろう、田島の言葉に俺の吐き出す息は震えているのだ。
時たま思う。田島に追い付けないことが息も出来ないほどに悔しいし苦しい。けれど何より苦しいのは真っ直ぐに差し延べられる田島の手を、好意を、素直に受け入れられないことだった。さっきだって俺を気遣ったに違いないのに、全く俺はどうしようもなく捻くれて田島を責め立てるなんてとんだお門違いだ。
俺は弱くて真っ黒い人間で、だからこそ田島のような強くて真っ白い人間は眩し過ぎて直視することを躊躇ってしまう。わかっている認めるよ田島、俺はお前を妬ましく思っている癖にお前に認めて欲しいんだ。全く虫のいい話だよな本当に。
「…はな、」
「モモカンにさ、」
「! うん、」
「今度の攻略戦争の、三つ目の選択肢を提示されたんだ」
「三つ目?」
「はっきりとは言われなかったけど、多分、降伏だと思う」
つまり無血開城ということだ。確かに誰も死なない。けれどそれだけだ。負けた側の処遇など考えたくもないし、もしかしたら死んだほうがマシだと思えるような扱いだって受けるかもしれない。ただ死なないというだけだ。それでいいのか。生きていればいいのか。それでもいいと言う人が居れば否と言う人もいるだろう。人の心は多様で全く計れない。だからこそ決めかねる。
「…花井はどうしてぇの?」
「…おっ、れは…」
田島の眼は真っ直ぐでひたすらに強い思いばかりが映っている。その赤銅色の鏡に映る自分は全く情けない顔をしていたのだけれど、ただその強さは俺を奮い立たせるには十分だった。そうだよ田島、俺は負けたくない。いいはずはないのだ。そんなもの、俺達は此処を護るために存在しているのだから。
「大丈夫だよ花井。皆、お前の決めたことならついてくるから」
ギシギシと音をたてていた心が解けるような気がしたのだ。あまりにも田島が欲しい言葉をくれるものだから。
「おれ、は、」
ああ違う。
「俺達は、戦う」
不意にぼろりと溢れた涙が田島の額に跳ねた。恥ずかしい。けれど少しばかり田島に触れることに抵抗がなくなったような気がするのだ。また妬ましいと悔しいと思わずにはいられない日もきっとあるのだろうけれど、せめて顔を突き合わせて、田島を正面から見据えて立とうと思う。
田島が再び俺の身体にきつく抱き付いてきた。顔を埋めてしまったから表情はわからなかったのだけれど、その温かさに感じる苦しさは確かに前まで感じていたものとは違っていたのだ。


(思えば最初からだったのかもしれない。それはある種の、)


Fin?
-----











『…羨ましいよ、俺はお前が』
馬鹿だよ花井。お前は馬鹿だ。こんなに真っ黒くて汚い俺が羨ましいなんて全くどうかしているよ。お前は真っ白くて綺麗なままでいいんだ。そのままでいい。変わることは赦さない絶対に絶対に赦さない。どうかそのまま堕ちておいで逃がさないように飼い殺してあげるから。言葉ならいくらでもやるよ。お前が満足するまで嫌になるくらい。なあ花井。綺麗な涙、それも全部俺に頂戴。なあ全部全部!俺はお前が欲しくてたまらないんだ!
俺は花井の腹に顔を埋めながらその腰を抱く腕に力を込めた。顔は上げられなかった。酷く欲深で醜い自分を見られてしまうのが怖かった。


(火蓋は切って落とされた)


Fin
-----


せっかく花井は前向きになり始めたというのに田島のヤンデレ具合(寧ろ病んでる具合)が大変なことになっています。確実に方向転換がききません。これは酷い。
さて次はおそらく風雲急を告げる感じになる、いや、なればいいと思います。


感想お待ちしてます。


2010*0603 玖瑠璃

[back][next]

あきゅろす。
無料HPエムペ!