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花という名の無法地帯
二律背反の君を説くY(西浦)


おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説くY


たゆたうような昼下がりだったのだ。サンルームのように日差しが降り注ぐ食堂には俺以外にも飯を食いに来てる奴らが何人か居て、他愛のない会話に笑いが零れる昼食はそれはそれは楽しい一時に違いなかった。だからこそ花井が持って来たニュースは正に寝耳に水というやつで、少なからず動揺もした。
「本当にさ、カイセンツーコクって、なにそれ!」
「せめて漢字で発音してよ水谷。頭痛くなるだろー」
「どっちにしろ、『西浦』は中立だぞ。なんで開戦通告なんて受けなくちゃならないんだ」
巣山が尤もらしいことを言っている横で水谷と栄口が頷いた。俺は三人の話を聞きながら表情を硬くして地下のプラントに降りていった花井のことを思い出していたのだ。心なしか顔色は良くないようだった。当然だ。
「田島」
「お、なに?」
「なにじゃないよ。余裕だね、ウチのガーディアン様は!」
頬を膨らませた水谷に俺は曖昧に笑ってみせた。余裕なわけでは決してないのだ。ただどうしたら花井をフォロー出来るか考えていただけで。(花井は俺の助けなど求めてはいないだろうけど)
「今、阿部もいないし…タイミング悪過ぎるよねぇ」
「シュッコウだっけ?確か『武蔵野第一』の榛名サンとでしょ?またなんでその組み合わせなの」
「中央の指令…つーか、行き先の問題だろ。あの二人は『戸田北』の出身だから…」
「えー!?阿部って『戸田北』なの!?あの!?」
「水谷声でかいよ。てか知らなかったの?」
意外と皆が落ち着いていて安心した。水谷辺りはもっと動揺すると思っていたのだ。(水谷の前の守護地区は割と平和だったという話を聞いていた)
そういえば三橋は何処に、ああそうだ花井に管制室への連絡を任されていたのだ。おそらく沖か西広と一緒にいるはずだ。誰かと一緒に居ればそれでいい。取り敢えず今は。
「お、うるせーと思ったらクソアーチャーか」
「えー!泉ひど!」
泉が白衣を翻して歩いてくる。その言葉は酷く辛辣に違いなかったが、これが泉なりのコミュニケーション方法らしい。主に水谷に対してのみではあったのだけれど。
「てか何処なの?中立に攻略戦争なんて仕掛けてくる非常識な奴らって」
「確か『白秋』と『和光東』の連名だ」
「聞いたことあるか?」
「…多分だけど『和光東』って少し前に榛名さんのとこに負けてたような…」
栄口がマザーシステムの端末を取り出してデータを広げる。それに拠れば確かに『和光東』は『武蔵野第一』に攻略戦争を仕掛けて負けていた。『白秋』などは名前すらあってないようなものだ。
しかし、これはあくまで画面上のデータであって実際に戦ってみなければそのチームの強さというものはわからない。今までの戦闘で嫌というほど学んできたことだった。
「問題は何処が乗り込んでくるかじゃなくて、どうやって対処するかだと思うんだよねー」
栄口の言葉に泉と巣山が頷いた。水谷は真剣に話を聞いているようであったが、おそらく話の内容は理解していないだろう。しっかりしろ水谷。
「中立を捨てて外で戦うか。中立を貫いて内で戦うか。どっちにしろキツイことには変わりないけどな」
「…だな」
中立特区はその立場上、地区を囲む石塀の外側で陣を敷いて待ち構えることが出来ない。例え宣戦布告されていたとしてもだ。だからと言って制約に従って塀の内側、要するに居住区で戦闘を展開すれば、それは則ち特区内住民の死傷する確率が高くなることを示している。
ならばいっそ中立特区の名前を捨ててしまえば俺達にとって何とも楽な状況になるのだが(こう見えても手勢揃いなのだ。外で戦う分には自信がある)、『中立特区』というのは力の無い者達にとって非常に意味のあるものなのだ。戦闘に巻き込まれることを恐れて危険を冒してまで中立に亡命してくる者達もいる。その数少ない拠り所を俺達が自ら手放すわけにはいかない。
泉は小さく唸った後に少しばかり声を落とした。
「…花井、キッツイな」
栄口も巣山も、水谷でさえ眉を顰めて口を噤んだ。非常に重いものを背負った戦いになるということは誰の目にも明らかで、特に花井の両肩にのしかかっている重圧は想像することすら難しい。なあ花井、お前は今なにを考えているのだろうか。


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暗い部屋に青い光の束が零れ落ちるようだった。コポリコポリと浮き上がる気泡の音を聞いているとただただ俺は外界と隔絶されて深い湖の底に立っているような気分になるのだ。もういっそ沈んでしまいたいようなそんな誘惑に耐えるように俺は手の内の電報を握り締めた。
「ねえ花井くん、あなたはどう思う?」
「………俺っすか」
モモカンは笑った。この笑顔が俺は酷く苦手だった。真っ直ぐな瞳に射抜かれると自分が言葉にする前に全て悟られてしまっているような気がしてしまってならないのだ。キュイと車椅子の車輪が鳴って黒と青で構成された世界に響いた。
「…電報の内容は『勧告』じゃなくて『通告』です。つまりもう向こうは進軍を始めているということですから、こっちもそれなりの手を打たないと…」
「それなり、ね」
探るような視線に俺は胃が痛くなりそうだった。いや違う痛い。モモカンの求めている答えを探しあぐねて俺は視線を外した。果たして何がどうしてこうなってしまったのだろう。
電報を受け取った瞬間、何の冗談だと腹の底から笑ってやりたくなった。それしかない。もうそれしか浮かんでこないのだ。この『西浦』が他の戦線地区から開戦通告を受けるだなんて想像したことさえ無かった。俺が考え無しなのだろうか。いやいや待て、当然だろう。此処はあくまでも中立特区なのだ。誰の味方にも敵にもならない。だからこそ攻略戦争も起こさないし仕掛けない。当然だ。暗黙の了解のはずだ。だけれど裏を返せば中立特区に戦争を仕掛けてはならないという確約もない。仕掛けて来ない、そして特区である限り外に陣も敷けない。相手に取ってこれ以上の獲物もないだろう。
戦いが恐ろしいわけではない。ただ護らなければならないものが文字通り後ろ手にある状態で皆がどれだけ自由に戦闘ができるだろうか。正直、俺には計りかねた。
「花井くん、さっき「それなりの手を打つ」って言ってたけどね。それは戦うってこと?」
「それ以外に何が…」
「わかっているとは思うけど、中立特区は地区内部を敵に侵略されるまで、騎士は戦ってはいけないの。それが嫌なら…」
「特区の名前を辞して戦線地区になる、知ってますよ!」
そんなことは知っている。だけれど、この中立特区を無くしてしまうわけにはいかないことくらい俺にだってわかっていた。
「選択肢はその二つだけじゃあないでしょう?」
「…ま、さか」
まさかそんな。モモカンの言わんとしている事に俺は愕然とした。足元がぐらつくような可笑しな感覚さえしてくるくらいだ。
「それじゃあ俺達は…!」
「1日だけあなたにあげる」
モモカンの見つめる先の水槽には魚一匹泳いではいない。自由にならない脚の代わりにゆっくりと車椅子を動かしてモモカンは俺に向き直ると、その華奢だけど力強い手で俺の手を握ったのだ。
「考えるんだよ花井くん。君はこの『西浦』のキャプテンなんだから」
きしりと心が軋むようだった。さめざめとした胸の内にモモカンの笑顔は場違いなほどに眩し過ぎて直視することができなかった。なあ田島、強いお前なら一体どうするのだろうか。


(ああ、堂々巡りに涙も出ない)


Fin
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モモカンは『西浦』の監督権を持っていますが脚が不自由で前線に出られないので、ほぼ全権を花井に譲渡しています。これにも色々あるのですが機会があったら。基本的には第三層にある司令室にほぼ住んでいる状態です。(篠岡もよくここにいる)
ちなみに志賀先生は第二層で農作業等の担当者です。皆がおいしい御飯を食べられるのはシガポのおかげ!
にしても説明中心(主に特区)の話になってしまって、更にわかりづらくてすみません。精進します。


感想お待ちしてます。


2010*0529 玖瑠璃

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あきゅろす。
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