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花という名の無法地帯
二律背反の君を説くX(阿部と榛名)


おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説くX


もう二度と此処に来ることはないと思っていたのだ。もう二度と。
土に濁った風が破壊し尽くされた街の臭いを運んでくる。錆び付いた臭いがあの日の血と臓物の生臭さを思い出させて背中がざわざわとした。ああ気持ちが悪い。人の叫びと燐の炎とが踊り狂ったあの夜。義足の付け根が痛んで痛んで痛んだ。
「タカヤ」
はっきりとした声で元希さんが俺を呼んだ。喉がカラカラに渇いていたから返事をすることは叶わなかったのだけれど、脚の痛みは少しばかり引いた。
「行くぞ」
「………はい」
元希さんは自身の右腕を握り込めるように摩ると(もしかしたら元希さんもあの夜の傷が疼いたのかもしれない)、壊れかけた建物の中に入って行った。俺もそれに続く。久方振りに訪れた『戸田北』の基地は全く以って灰色で俺達を寄せ付けたくないようだった。
硝子の破片やオモチャみたいに壊れた机とソファ、剥がれたリノリウムの床にこびりついた血痕と腐臭。息がしにくい。苦しいを通り越してもはや滑稽だ。
「タカヤ、来いよ」
「…元希さん、」
「下だ、下」
もう階段とは呼べないだろう螺旋の残骸を足掛かりに俺達は下へ降りて行く。カラカラカラカラ。蹴り飛ばしてしまった足元の小石が駆け足に暗闇の中へと落ちて行った。この下はこの先は、思い出したくない過去の遺物が眠っている場所。永遠とも付かないほど暗い地下に潜った俺達は静かに息を詰めた。そんな馬鹿な。
「タカヤ、」
「…何かを動かした跡が、あります」
廃墟と化した『戸田北』の基地の中で唯一、稼動している倉庫があった。静かに死んだように息を潜めて、だけれど厳重に誰にも見つからないように。絶対に誰にも、誰にも見つからないように。
「開けるぞ」
「…はい」
俺は静かに刀の柄に手を掛けた。情けないことに指先が震えてしまって仕方ない。強く握る。収まった。長い長い暗証番号を入力した後、その三重にも並べられた重厚な扉は開かれたのだ。

「嘘だろ…」

俺か元希さんかどちらが呟いたのかわからなかったけれど、ああ嘘だろう。こんなことがあって良いはずもない。血の気が引いて身体が冷え切って、引いてしまった血液はきっとこの墓場に吸い込まれてしまったに違いないのだ。


(そして悲劇は放たれた)


Fin
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たくさん人数を出すと収拾がつかなくなると知りながら榛名さんの登場です。仕方ないよ戸田北だもの。
因みにうちの阿部と榛名さんはうすら仲が良いです。(わかりづらい


感想お待ちしてます。



2010*0524 玖瑠璃

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あきゅろす。
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