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花という名の無法地帯
二律背反の君を説くU(田島と花井)


おお振り異世界パラレル
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二律背反の君を説くU


チームの再編成で少し遠くに飛ばされることになった。何処だって此処よりはマシだろうとチームメイトだった奴に言われたのはつい昨日のことのように思い出されるのだけれど、どうやらそいつは死んだらしい。そもそも俺の居たチーム自体が壊滅したそうで、それは要するに俺が守ってきた『荒川』が攻略されてしまったことを示していた。
俺は俗に仲間や戦友と呼べる奴らを失っただけでなく、同時に今まで戦ってきた意味まで奪われてしまったのだ。
まあ確かにさ此処は良いところだよ。新しいチームメイトも良い奴ばかりだし、戦いはあるけどそんなのはそっちに比べたら随分と少なくなったしさ。だけど。

俺もそこで死にたかったという想いは拭えないままでいるんだ。

「…じま!!」
はっとした時にはもう遅かった。俺の身体は軽々と吹っ飛んで、樹の幹に叩き付けられた。痛みというよりは衝撃で身体が動かない。気管の奥から何か熱いものが溢れてきた。きっと血だ。
戦闘の最中に他のことを考えていた自分が悪いのだ。仕方がない。ああ痛いのが這い上がってきた。背中がバラバラになってしまったのではないかとすら思う。こんな中級上がりの化物にやられるなんてやだなあ。苦しい、これは血がべっとりと喉に張り付いているに違いないのだ。息が上手くできない。
どすっと鈍い音がして地面が揺れた。花井が化物の頭を大剣で穿ったのだ。(自分の身の丈程もある剣を振り回す姿が格好良くて実に羨ましかった)
「田島!」
花井が駆け寄ってくる。花井梓、はないあずさ。綺麗な名前に違わずに花井は綺麗な奴だった。見た目もそうだけど声も。あと背。背が高いから余計に凛として見えるのかもしれない。特に透き通るような深い飴色の瞳が俺は好きで、他の誰かと話している横顔をよく盗み見ていた。花井は俺を真っ直ぐに見ないのだ。
花井が俺を良く思っていないことは薄々だけど感じている。けれど俺は花井のことを嫌いにはなれない。きっとならない。
「田島、田島、大丈夫か!」
「…おー、だいじょー…ぶ」
実際のところ全く大丈夫では無かったけれど、絞り出せば声は出るものだ。花井は眉を顰める。そして大剣を鞘に仕舞い込むと俺の身体を丁寧に抱き上げたのだ。
身体は痛んだけれど俺は花井をこんなに近くに感じられるのが初めてで酷く嬉しかった。
「はな、はない…おまえはケガ、してねーの」
「あんま喋んな、俺は平気だ」
「そっかあ、よかった」
花井は傷付いた顔をした。大好きな飴色が暗く凍り付いたように見えたのだ。嫌だ。
「はない…」
「トレーラーまで運ぶぞ。今日は泉が一緒で助かったな」
矢継ぎ早に花井は言った。俺と話をしたくないのだ。花井、なんで俺のことが嫌いなの、どうしてだよ花井。花井花井花井!
「…痛むか?」
「…う、うん?」
「え、どっち」
「つーかなんで」
「泣いてるから、」
言われて気付いて驚いた。確かに俺は泣いているようだった。頬を生暖かい水が伝うのを感じた。
「うおーマジだ」
「…気付いてなかったのかよ」
花井は大きく息を吐き出すと、言い聞かせるようにしっかりとした口調で言ったのだ。
「大丈夫だかんな、田島」
花井が微笑った。ひどく穏やかな笑顔だ。花井には妹が居るらしかったから、きっとこういう表情が出来るのだ。(俺の姉兄達もこういう風に笑うことの出来る人達だったからわかる)
花井は優しい。俺のこと嫌いなのに労ってくれるんだ。きっとキャプテンだからなのだろうけど、大丈夫だって笑ってくれるのは嬉しいことに違いない。
きっと性根が優しいのだ、それでいて真面目。だから仲間を無下には出来ないのだろう。その花井が俺を嫌っていたとしたならば、それは確実に俺が悪いに決まっているのだ。前言撤回。やっぱり俺はまだ死ねない。
「はないー」
「うん?」
「ありがとな」
「…ああ」
花井が欲しい。とてもとても欲しい。頭の天辺から足の爪先まで、内臓も声も涙も余すところ無く欲しい。全部全部欲しい。
好きになってもらいたいし仲間として見て欲しいけど、それはもう取り敢えずどうでもいいや。

ぐるぐると黒いものが腹の中で渦を巻いている。真っ黒な雨雲みたいだ。この渦巻く感情が酷く醜いものだということはわかっていたのだけれど、きっと花井は綺麗なままだからそれで良いのだ。


(この頃の俺は傷付いた心を癒す術さえ学ばずに、ただ欲しがることしかできなかった)



Fin
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田島が花井を好き過ぎて少し歪んでいるような気がします。いいんですパラレルだから!
因みに『西浦』は中立地区ですので割と平和ですが、魔物みたいなのがわんさか出るのでそこそこ大変なのです。あと花井の目の色がわかりません。さんざっぱら悩んで悩んで飴色です。果たして合っているのだろうか。


感想お待ちしてます!



2010*0515 玖瑠璃

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あきゅろす。
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