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空(助けられた猫のお話)
Celestial CatVB




小さいけれど、波打つ水面のように煌めく紅色の石。

それを中心にあしらった十字架のチョーカー。



「…俺…に?」
「………はい」


鬼鮫の言葉を受けたイタチは、眩しそうに、その瞳を細めた。
鮮やかな紅にうっすらと感情の色を乗せて、唇を結ぶ。


そして、小さく笑った。


「ありがとう」


そう言ったイタチは、
まるで、宝物でも扱うかのように十字架に触れる。

白い指先、紅い石。



ああ、

どうしたら。



鬼鮫は拳を握った。


「…付けさせて頂いても、よろしいですか」


喉が渇く。
舌が縺れそうになる。


たった一言、言うだけなのに。

それだけのことに、
こんなにも気持ちがざわめく。


「…頼む」


鬼鮫にチョーカーを渡したイタチは、彼に背を向けると自身の後ろ髪をさっと掻き上げた。
日に焼けていない白い項が露わになる。


少しでも爪を立てれば、
簡単に傷付いてしまいそうなほどに華奢な首筋。


鬼鮫は細心の注意を払いながら、そっとチョーカーを結んだ。


「できました」


鬼鮫の言葉に、振り向いたイタチの首元に煌めく銀十字。


「どうだ?」
「よく、似合っています」
「…そう、か」


イタチは少し恥ずかしそうに眉を顰めると、嬉しそうに唇を綻ばせた。


まるで、花の蕾が綻ぶように。



わかっていた、

どうしようもないこと。


きっと、
咲いてしまったのは。


「…、っ」
「…!」


瞬間、波に足をとられたイタチが身体の均衡を崩した。
その身体を支えるために、鬼鮫は咄嗟に手を伸ばす。


「…」


白く、打ち付ける波。

夏にはまだ早い陽射しの下で。

自分の胸に簡単に収まってしまった小さな身体。


「大丈夫ですか、イタチさん」
「ああ…すまないな」


イタチがふと顔を上げた。
真紅よりも深い赤色に引き込まれそうになる。


もう、きっと。

一生のうちで、こんなに美しい色に出逢うことはないだろう。


鬼鮫は咄嗟に掴んだ細い手首を辿って、確かめるように指先を絡めた。



だめだ、一瞬だって、

この手を離したくない。


細い手首、華奢な指先。



ずっと、
気付かないふりをしてきた。


別れるときが来るから、と。



けれど、

他愛のない言葉を交わすうちに。

じゃれるように触れ合ううちに。


確かに、少しずつ。

綻んでいくものがあった。



咲いた花に、

名前を付けるとしたら、


それはきっと、

貴女の名前だ。



「イタチ、さん」
「…?」


急に動きを止めた鬼鮫に、されるがままになっていたイタチは問うように小首を傾げた。


「もうすぐ…もうすぐ、約束の二ヶ月が経ってしまいますが」


妙に喉が渇く。
鬼鮫はイタチの手をぎゅっと握った。


このまま、私と、
ずっと一緒に居てくれませんか。


心はそう叫ぶのに。


「…早かった、ですね」


口をついたのは、
そんな言葉で。


自分の意気地の無さに落胆している鬼鮫を見たイタチは、軽く目を瞠ると困ったように苦笑した。


「…そうだな」


潮風が二人の髪をさらう。
遠くから聞こえる水族館のアナウンスが、イルカショーの案内を告げていた。


「…イタチさ」
「イルカが見たい」


鬼鮫の言葉を遮るように呟いたイタチは、ぱっと彼の腕から飛び出した。


消えてしまった温もりに、
鬼鮫は、一瞬言葉を失う。


そして、深く息を吐いた。



次こそは、絶対に。



そう、どこか言い訳じみた言葉を心中で呟いた鬼鮫は、歩き始めてしまったイタチの後を、急いで追いかけたのだった。



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今更思えば、
あれが自分に与えられた最初で最後のチャンスだったのだと。


気付いたときには、
もう遅かった。



けれど。


もしも、あの時、
それに気付けていたなら。


約束よりも、
早く訪れてしまったあの日を。




変えることが、

できたのだろうか。






next→W
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長い!


大幅にカットしてすらこの長さってどういうことなの!(知るか


水族館でラブラブ(かは微妙だけども)デート!

なぜ水族館かだって?

それはイタチさんに美味しそうだなって言わせたか(以下略


てか、自分の書く鬼鮫さんは、
いつも意気地無しで不器用のような気がするんだ。


どんまい鮫さん(誰のせい


物語もとうとう折り返し地点に差し掛かりました。

皆さま、時間の許す限り、
どうぞお付き合い下さい。




2008*0710 玖瑠璃

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