空(助けられた猫のお話)
Celestial CatTA
先程まで確かにあの黒猫が居た場所に、言葉では表現できないほど美しい人が座していたからだ。
それこそ、
天女と見紛うほどの。
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烏の濡れ羽色の髪。
柘榴よりも鮮やかな紅の瞳。
白く、しなやかな肢体が、自分があの黒猫を包んでいた灰色の上着から覗いている。
初めて目にしたはずなのに。
どこか、知っている色合いで。
「あなた、は…」
「………うちは…イタチ」
イタチは人では決してありえないだろう獣の耳を一度そよがせ、鬼鮫を見上げた。
凛とした紅の光。
その鮮烈なまでの瞳の色彩に、鬼鮫は彼女があの黒猫であることを心の何処かで悟る。
けれど、そんな、まさか。
あまりのことに二の句が継げなくなっている鬼鮫を見つめていたイタチは、何も言わずに視線を下げた。
その視線は、鬼鮫の手の内にある衣に注がれている。
それに気が付いた鬼鮫は、慌ててイタチへとその衣を差し出した。
「…あ、いえ、これは…盗ろうとかそういうことじゃなく、汚れていたので…その…洗おうかと」
しどろもどろに紡がれる鬼鮫の言葉を聞いて、イタチは疑うこと無く一つ頷く。
そして、小さな声で呟いた。
「………ありがとう」
控えめだが、穏やかな微笑み。
それを見た鬼鮫は、腹の底から暖かくなるような感覚に口許が緩んだ。
背筋を撫でられたような、妙にくすぐったい気持ちになる。
それをごまかすように、鬼鮫は口を開いた。
「……イタチ…さん、あなたはいったい…?」
「…助けて貰った礼はする」
鬼鮫の問いには答えず、イタチは彼を見つめた。
その吸い込まれそうになるほど美しい煌めきに、鬼鮫は何も言え無くなる。
「……礼なんて…大したことはしていませんよ」
「お前にとっては大したことで無くても、俺がお前に助けられたのは事実だ」
艶やかな尻尾でシーツを一撫でしたイタチの瞳は、瞬き一つせず、真っ直ぐ鬼鮫に向けられている。
その眼差しからは、
引き下がらないという強い意志さえ感じられた。
鬼鮫は困ったように頬を掻く。
どうあっても、
譲ってくれないのでしょうね。
催促するようにぱたぱたと尻尾を振っているイタチを見て、鬼鮫は小さく笑った。
そして、この状況を自然に受け入れている自分に少し驚く。
まるで、
こうなることを初めから知っていたかのようだ。
鬼鮫は口を開いた。
「…では、イタチさん、ひとつお願いがあるのですが」
その時は、
気が付かなかったけれど、
確かに、ここから始まっていた。
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あの時。
もしも、
雨が降っていなかったら。
もしも、
車のライトが眩しくなかったら。
もしも、あの時。
暗い闇の中に目を落としていなかったら。
それが、
たとえ定められていた運命だったのだとしても。
あなたに出会えたことは、
私にとって、
何にも代えがたい奇跡だった。
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やっちゃったー!
もう本当やっちゃったよ自分!
猫でにょたなイタチさん!
まじでドンマイだな。←
てか、角都さんのキャラが掴みきれてません。
どんな人だったっけ?(コラ
久々の長編になりそうです。
何だかとってもワンダーな感じになりそうですが、
どんと恋や!的な御仁さまがいらっしゃいましたら、そっと見守ってやって下さいませ。
感想とか、
切実にお待ちしております。
2008*0615 玖瑠璃
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