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空(助けられた猫のお話)
Celestial CatWA




「…もう決めたことだ」


イタチはベッドの上で膝を立てると、しっかりとデイダラ向き直った。
艶やかな黒髪が細い肩から滑り落ちて、白い頬に触れる。


ふと薫った、潮の香り。


「イタ…!」
「もう行け、デイダラ」


デイダラの言葉を遮るように、イタチは窓辺に腰を掛けていた彼女の肩をそっと押した。
デイダラはそれに応じずに、己の碧眼を細める。


「でもよ…!」
「俺と逢ったことが知られれば、お前も面倒になるだろう」
「…っ」


眉を顰めながら呟いたイタチに、デイダラは口を噤んだ。


知っている、
イタチが自分をあしらうのは、
この身を案じてくれているのだということ。


だからこそ、一緒に。


「…」
「…デイダラ」
「…?」


水色のカテーンの裾を掴んで、じっと動かないデイダラを見て、イタチは口を開いた。


「……すまない」
「…っ」


だからこそ、一緒に、

帰りたかった。


申し訳なさそうに微笑んだイタチに、デイダラはやる瀬ないように眉を顰めると、トンと窓枠に飛び乗った。


そして、
その碧眼でイタチを見る。


交錯する、紅と蒼。


一緒に、
帰りたかった、のに。



「…っ、ばかやろ…っ」


カーテンを彩る水色がぼんやりと滲んで見える。
デイダラは己の目元を乱暴に拭うと、黄昏を過ぎた宵闇の中へと姿を消した。



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イタチはデイダラが消えていった夜の空をじっと見つめていた。
夏の始まりを告げる青い草の匂いを含んだ風が、イタチの頬を撫でるように部屋に入り込んでくる。

はためくカーテンの音を聞きながら、イタチはその瞳を閉じた。


すまない、デイダラ。


窓を蹴る瞬間、
泣いていたように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。


本当に、すまない。

けれど。


ふっと息を吸い込めば、熱をもった空気が肺に沈んで、溶けていった。



迷いは無い、

これは決めたことだから。


運命を知った、あの日に。



イタチは目を伏せた。
その脳裏を過ぎるのは。

優しい、あの後ろ姿。



やってみせる。

たとえ、それが、
どんなに無謀なことであったとしても。



「…絶対、に」



夜の闇に浮かび上がったイタチの瞳は、煌々した輝きをもって、真っ直ぐに前だけを見据えていた。







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デイダラのキャラが(以下略


はい、この話で初めてのイタチさんサイドです。
…あまり胸の内は出していませんがね!←

感情を吐露しないで話を進めるって難しい!


ていうか、なんというか、
やっとこの物語も折り返し地点と言いますか。

やっとこさ半分まで来ました。


なんというか、はい、
…頑張ります。




2008*0720 玖瑠璃

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