[携帯モード] [URL送信]

present for you
せめて、朝までは、 2

(ひとり、だな)

 家の中で人が死ぬことを、サツキは嫌がる。それは、多数の証拠がそこに残ってしまうせいだ。どんなに気をつけても、何かは残る。自分の完璧さなど、信用しない彼女のために、ユエはなるべくならそれを守りたいと思ってはいた。相手の出方にも、腕前にもよるのだが、彼女の寝室、という場所柄、それは割と容易だった。寝室のすぐ下がガレージなのだ。
 相手の指がドアノブにかかったことが、かすかに揺れたノブのおかげでわかる。この分なら、そんなに素晴らしい腕前、ということもなさそうだった。こちらも指をかけ、思い切ってドアを引いた。

「……ッ」

 予想外の衝撃だったのか、相手が体勢を崩したかっこうでドアにくっついてきた。その一瞬の隙を見逃すことなく、ユエは相手を締め上げ、立ち上がらせるとそのまま、窓へと誘った。

「狙いは俺か、あいつか、」

 静かに問いかける声に、当然ながら答える声はない。ユエは薄く笑って、自分よりわずかに小さい相手を腕に抱えたまま、二階の窓からガレージの屋根へと飛び降りた。相手からのわずかな抵抗など微塵も気にすることなく、そのまま首をぐっと締め上げる。殺すつもりはなかった。ただ、少しだけ意識を奪う。分厚い長袖の上着と手袋のおかげで、ひっかかれようとかみつかれようと、何の証拠も残らない、大して傷みも感じなかった。
 車に押し込むと、ガムテープで口を封じ、手足を拘束する。指一本動かせないように厳重に拘束した腕にシートベルトを通し、体を固定すると、相手の持っている武器を確認した。胸ポケットにナイフと銃がみつかる。それには手をつけないままで、ユエは運転席に乗りこみ、鍵のついたままの車をスタートさせた。真っ暗な中に走り出す、黒いセダン車。エンジン音はごく静かで、運転はひどく模範的なものだった。
 相手が目を覚ますよりも速く、車は海へと着いた。遊泳ができるわけでもない海でも、夏ともなれば人の姿がちらほらと見える。ただ、向こうは大してこちらに気を配っているわけではない。さりげない仕草で、手前の駐車場でガムテープでナンバープレートと車種名を隠してから、ユエは車を水際へと進める。
 車止めすれすれまで進めた車を降りると、ユエは後部座席の相手を引き摺り下ろした。



[*前へ][次へ#]

2/4ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!