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いつかわかるよ 1

「せんせー! 小野田せんせーい!」

 途端に後ろから聞こえる元気な声と足音と。かたちよくくちびるで笑って振り返る。

「こらー、廊下走らない!」
「すいません!」
「てか先生何でこんなとこ歩いてんの!? びっくりしたんだけど!」
「先生こっちに用ないじゃん」

 女子生徒達はきゃあきゃあと騒がしくまわりを取り囲む。確かに彼女たちの言うとおり、英語の教員のわたしには、通常、理科準備室や理科室には用事はない。

「お弁当の注文取りに来たのよ」

 そう言って、右手の小さなパンフレットをひらひらとさせる。あからさまにがっかりした雰囲気で、女の子たちが互いに目配せする。

「なあに?」

 しずかに笑いながら尋ねると、ひとりが口を開いた。

「小野田せんせー、平賀せんせーと付き合ってるって噂になってるからさー、なんか面白い用事かと思ってー」
「まさか」

 くすりと笑って、私は手を振る。
 平賀は、私より四つ年上の理科の教員だ。

「それに平賀先生は理科準備室にいらっしゃらなかったわよ」
「そうなのー?」

 受験生でもない中学二年生たち。三学期の期末試験も終わった今となっては、授業があるとは言っても身のはいる生徒は少ない。

「せんせー平賀キライなのー?」
「平賀先生、でしょ」

 付き合うとか、恋とか、そういうものに興味津々で。
 生意気で、そのくせ甘えてて。

「あっ、平賀せんせーだ!」
「ホントだ、せんせーおはよー!」

 まだ素直なくせに、ひねくれてる。
 言葉の通り、職員室の方から平賀が歩いてくるのが見えた。おはよう、と爽やかに生徒たちに返す挨拶に、心の中で小さく笑った。
 この爽やかさに騙されていられる子供たちは幸せだ。家に帰れば、爽やかさの欠片もない男なのに。

「おはようございます、お昼どうなさいますか?」

 なるべくにこやかに、問いかける。平賀もにこやかに、お願いします、と返す。
 色気も何も感じさせないように、ひどく義務的に聞こえるように。私はパンフレット横の小さな名簿に丸をつけた。

「じゃあ、注文しておきますね」
「お願いします」



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