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春を、追う。 3

 静かになった駅構内とは言え、女子高生、の呼び名に当てはまるのは私だけではなかったから、当然、呼んだ本人は注目を浴びていた。
 呼んでいる間は意識しなかったのか、急に小さくなったその人に、私は見覚えがあった。

「……せんぱい、」

 半分、信じられない気持ちで声に出すと、彼はそっと手招きをした。
 ブレザーとはやっぱり少し違う、スーツ姿の先輩に、ゆっくりと歩み寄る。

「ごめん、」

 先輩からの第一声に、私は首を傾げた。何を謝られているのか、わからないまま、けれど先に立って歩き出した彼の背中を追って、私はまた、桜の下のベンチに逆戻りしていた。
 先輩はどかり、と座った。私は隣に座ろうかと迷った挙げ句、座らずに、先輩の前に立った。見上げるようにして、先輩が私を見て、そして言った。

「……、ごめん、変な呼び止め方して」
「ああ……、いえ、大丈夫です」

 答えてから、思い出してすこしだけ、面白くなった。けれど、胸のなかだけにおさめて、彼に話しかけた。

「今日、来てたんですね」
「うん、担任、移動になったし」
「そうですね」

 大学のこともききたかったけれど、落ちていたら申し訳ない気がして、口に出来なかった。会話は途切れて、そして、桜が舞った。

「……呼び止めてくださって、嬉しかった、です」

 私は、散る桜に追われるように、話し出した。

「私を、覚えていて、くれたって、ことだから、」

 先輩はまっすぐに、私を見ていた。

「だから、よかったって、思えました、卒業式の、手紙のこと……、それだけで、嬉しかった、です」

 私も、まっすぐに見返して、話した。

「ありがとう、ございます」

 出来るなかで、一番綺麗な笑顔を。
 そう、思った。
 もう、会うことはないかもしれないから。
 それも、覚悟して、いたから。

「……別れの、セリフだなァ」

 先輩はふっと笑って、そう言った。何も答えない私をちらりと見て、そしてまた、続けた。

「俺、大学、合格したよ」
「……よかった、気になってたんです。おめでとうございます」
「で、合格したら、気になったことがひとつ、あってさ」
「……?」
「俺、君の名前も、訊かなかった……」

 先輩は、すこしだけ俯いた。
 そしてまた、ゆっくりと顔をあげた。



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