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春を、追う。 2

 あの時、まだ受験が残っていると言っていた。それが、合格したか否かを聞くことも、出来ない。ただ、いつか誰かが教えてくれることを、期待するだけ。それだけしかできない。
 もう、背中を見ることもできないこの恋に、しがみついていたって、仕方がないのに……。
 梅の木が並ぶその場所で、そっと立ち止まって、枝を見上げる。
 あの時折られてしまったらしい枝にも、新しい芽は、うまれていた。

(きっと、いつかは、)

 きっといつかは、こんな風になれる時が来るのだろうと、半ば期待するように自分に言い聞かせて、また、駅へと歩き出した。


 駅前には、同じ制服を着たひとたちがまだたくさん、いた。
 混んだ電車に乗りたくなくて、私は、温かいココアを買って、駅前広場の桜の下のベンチに座った。
 まだ昼を過ぎたばかりで、日差しも暖かだった。若干肌寒くはあったけれど、上を見上げると桜色と空色のコントラストが綺麗で、すぐに、寒さを忘れた。
 ココアは甘くてあたたかで、少し、しずみがちな気持ちを上向きにした。
 きゃわきゃわとしたホームの、駅の喧騒は気持ちのいいBGMになっていた。

(せんぱい、)
(桜が、綺麗です)
(せんぱい、)
(桜を、見ていますか)

 せんぱい、と、呼びかけてしまう自分に半ば呆れ、半ば自嘲しながらも、けれど私は、そんな自分を許しかけていた。
 静かに静かに、桜は散る。
 その花弁を見ていたら、いつかは散る想いを、急いで散らす必要がない、そんな気も、した。

 そっと、胸のうちに、それがあっても、いい、気がしていた。



 電車が、二本、過ぎ去って行った。
 賑やかだった駅は静かになり、手の中のココアは、ぬるくなっていった。
 もう一度、桜を見上げ、それから、ゆっくりとベンチから立ち上がった。
 ぬるくなったココアは飲み干すことができなくて、私はそれを、桜の根元にかける。桜も、甘い、と悲鳴をあげるだろうか。それとも、喜ぶだろうか……、そんなことを考え、すこしだけ、笑った。

 春休み中で定期券は切れている。自動券売機で切符を買って、私は改札に向かおうとして、そして、呼び止められたのだった。

「……ちょ、ちょっと待って! あの……そこのっ、女子高生、待て! 待って!!」

 何て呼び止め方を、と思いながらも、多分自分のことなのだろうと、振り返った。



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