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せめて、朝までは、 4

 勝手知ったるサツキの家、灯りをつけないままで、冷蔵庫に買って来たものを投げ込み、ペットボトルの飲み物と煙草だけを取り出す。黒色の分厚い上着を脱ぎ、上半身裸のままで飲み物の口を開け、飲み下した。煙草の火をつけ、サツキが寝ているソファの前にしゃがみこんだ。ソファから少し離れたガラス製のテーブルに置かれた灰皿に、灰を落とす。もとよりサツキは煙草を吸わない。この灰皿が自分のためのものだということを、ユエは少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しい、と思う。
 僅かに与えられた自分の居場所を守るために、ユエは今、ひとり、人の命を消そうとした。けれどそうしてしか生きられない自分達が、そっと身を寄せ合うことは、罪だろうか。
 いつか、罰が、くだるだろうか。

「……ん、」

 背後で僅かに動き出す気配があった。ユエは振り返らない。短くなった煙草を深く吸い込むと、灰皿に押し付けて消した。

「でかけてた?」

 いつもよりもわずかに舌足らずな口調に少しだけ口元をほころばせながら、ユエは右手で煙草を持ち上げて振って見せた。ああ、とサツキが納得したような声をあげ、体を起こさないままに、ユエの首に腕を巻きつける。

「もう少し、寝てろ」
「でも」
「大丈夫だ、俺がいる間くらい、寝てろ」
「うん、そう、ね」

 うふふ、と微かに笑う声がして、サツキは絡めた腕を離した。ベッドに移動するつもりはなかったのか、そのままソファに戻ると、ユエの肩に触れながら、また、少しずつ寝息になっていった。
 ユエに触れていたサツキの指先が力をなくしたのを見届けてから、ユエはサツキにシャツをかけなおす。部屋の隅にあったストールを持ってきて、それも、かけた。そしてまた、サツキの前に座る。
 暗闇の中で新しい煙草に火をつける。
 背中に伝わるわずかな寝息と、身体の温かさ。
 気に入っている煙草の香りと、自分のための灰皿。
 どれを失っても、今は、きっと、痛い。

 ひとりではうまく休むことも出来ない彼女のための静寂を、ユエは静かに守る。静かに、静かに。
 いつか、罰せられる時が来たとしても。
 これが、罪でも、

 せめて、朝までは。


20090911
お友達へのハピバ小説でした!

高校時代に書いていた小説のキャラです。これも本当はリメイクして、長編におさめたいシリーズなんだけど…!
うーん。気長に、がんばります。



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