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春を、追う。 1
春休み。
離任式のために久々に来た三年生は、みんな、制服ではなかった。
もとより三年生は自由参加の行事なのだけれど、今年は、三年生を担任していた先生が二人、転任になったので、出席者が多かった。
卒業式から、約一か月。
三年生のいない学校はやっぱりがらんとしていて淋しかった。そして少し、肩の荷も重くなった気がしていた。泣いてばかりもいられない毎日が続いて、私はゆっくり、ゆっくりと、先輩のことを諦める準備をはじめるべきなのだろうな、と、考えるようになった。
まだまだ全然、そんなことは、出来ていないんだけど。出来そうな気も、まだ、しないんだけど。
あれから、通学路は少し特別な場所になった。
梅の花はもうとうに散ってしまって、若い緑色が綺麗に、綺麗に、産まれだしていたけれど。
来年、この花が咲く頃には、私が見送られる側になるんだな、そんなことを思いながら、ゆるゆるとそこを通り過ぎるのが、日課になった。
(来てる、の、かな)
登校中、まわりを見回したけれど、先輩のことは見つけられなかった。
広い体育館の中では、更にそれは無理な話で、離任式は、先生方の涙と、拍手と、花束の記憶を私に残したものの、あっさりと終わっていった。
帰り道、私はやっぱり、ひとりで歩く。来年からは、もう、追う背中もない。だから、もしかしたら、これが最後になるかもしれない。
忘れたいなら、そうするべきなんだろうとも、思う。
(この道を、)
(先輩と、歩いた)
梅の花が咲いていたこの道にも、今は少し気の早い桜が咲いている。特に、駅前の広場の桜は、本当に気が早くて、朝、ほぼ満開だなと思った。
そして、桜は、散る。
容赦なく、散る。
梅も桜も、季節は容赦なく、巡る。
思いを伝えれば、未練は減るのかと思ってた。でも、新たな未練が生まれただけだった。知ってしまったから。先輩の優しさを、話し方を。背中だけじゃない、歩く姿を。笑い顔を、困った顔を。
忘れられない。
諦められない。
消えていかない。
私は途方に暮れていた。
もう梅はない。みどりになったのに。桜も咲くのに。きっとすぐに、散っていくのに。季節は巡る。容赦なく。なのにーー。
(せんぱい、)
(げんき、ですか)
心の中で、問いかけている。問いかけ続けている、自分に、焦っていた。
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